プロの仕事の向き合い方の教科書 NYで西野亮廣に訪れた絶体絶命のトラブル! そんな時こそ声は荒げず、喋るスピードはゆっくり。なんならジョークも!
日本では照明と振り付けのクリエイティブを進めていた
その裏で進めていたのが、照明と振り付けで、まだ信頼関係が築けていないブロードウェイスタッフだけでチームを組んでしまうと匙を投げられてしまう可能性があったので、一旦帰国した時にイジツさんとカオリさんに事情を説明して、照明と振り付けのクリエイティブを進めてもらっていたんです。 ここで、日本にいる間にイジツさんと進めていた照明のプランについてお話しさせていただきます。 本読み公演だから本来はあまり照明は使わないのですが、物語が物語だけに、『えんとつ町のプペル』の照明は脚本やキャラクターの一部なので、照明は力を入れることにしたんです。 もちろん、ユニオンの規定もありますから、「どこまでやっていいのか?」という確認をユニオン側ととった上で、最終的に、照明を切り替えるキッカケが300回ある照明のプランを立て、極めつけに、ラストの星空のシーンでは、客席に向けられた大量の照明が上からガーッと降りてくるサプライズを用意していました。
意識したのはチームにヤバイ空気を流さないこと
話をニューヨークに戻します。 12月10日と11日は仲間集めに奔走し、ジワジワと協力者が見つかりつつあったのですが、厄介なことにアメリカは12月中旬から年明けまでホリデーシーズンに入るので、そこに突入してしまうともう間に合わないんです。 稽古は1月2日からだから。 なので、実質2~3日でキャスト&スタッフ全員の契約を巻かなきゃいけなかった。 これを夜通しやってくれたのがミーガン・アンです。 実際、ホリデーシーズンに入っても、彼女だけはずっと走り回っていて、とにかく、プレゼン公演の成功から目をそらしませんでした。 そうして1月2日から稽古がスタートして、2週間ほど経った時(公演1週間前)に、イジツさんがニューヨーク入りされて、「さぁ、明日から照明を合わせるぞ」となったタイミングで、ユニオンの方から「あなた方が用意してきた照明のプランをやらせるわけにはいきません」と通告されたわけです。 これが今回のトラブルの全貌です。 劇中で照明が300回切り替わる前提で脚本も演出も何もかも進めていたし、なんなら最後の星空のシーンで天井からガーッとおろしてくる大量の照明の為に結構な予算をブチ込んだのですが…「それも全部ダメだ」と。 ここで、「理不尽と戦うな。理不尽の中で戦え」が始まるわけですが、正直、あそこでテンパったか?というとテンパって無いんです。 あの時に意識したのはチームにヤバイ空気を流さないこと。 その為の言葉選び、声のボリューム、喋るスピードなどです。 皆の脈が速くなっていたのは見てとれたので、まずは落ち着かせる為に、「え~と、たとえばぁ~」という遅くなる言葉を挟んで、「あ。これはもしかしたら、それほど慌てる事態じゃなくて、なんとかなる類いのトラブルなのかもしれない」という空気に持っていくことに努めました。 というのも、昔から、忙しくなったらテンパる人とか、忙しくなったら声を荒げる人がすごく苦手で、「お前がそこでそんな声を上げたら、伝染するじゃん。なんで、そんなことも分からないの?」と随分冷めた目で見てたんです。 「ああいう人にはなりたくないなぁ」というのが昔から強くあったから、なのでトラブルが起きた時の言葉選びや、声のボリュームや、喋るスピードに意識がいくようになったのだと思います。 昨年1月のことだったので忘れていたのですが、あの運命の9分30秒のミーティングの最後、まだ何一つ解決していないのにチームの皆がゲラゲラ笑ってるんですね。 ミーティングしている自分を、今回のように俯瞰で見る機会ってあんまり無いのですが、我ながら、西野はミーティングの空気づくりが天才的に上手かったですね(笑) まず、「責任を追及したところで状況は変わらないのだから、責任追及はやめましょう」と釘を刺して、次に「今、話し合うべきではない内容」を明らかにして、ミーティングの方向を整えて、そして、いい感じのリアクションと、いい感じのジョークで場を温める…あんなヤツ、会議にいてくれたら最高じゃないですか。 あの人材、欲しくないですか?(笑) この回の『BackStory』はプロの仕事の向き合い方の教科書みたいな内容なので、是非、皆さんの会社の社員研修の素材として使ってください。 西野亮廣/Akihiro Nishino 1980年生まれ。芸人・絵本作家。モノクロのペン1本で描いた絵本に『Dr.インクの星空キネマ』『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』『オルゴールワールド』。完全分業制によるオールカラーの絵本に『えんとつ町のプペル』『ほんやのポンチョ』『チックタック~約束の時計台~』。小説に『グッド・コマーシャル』。ビジネス書に『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』『新世界』。