小さな町の縫製工場から、首相が着けるネクタイブランドに成長した「SHAKUNONE'」 新ブランド設立、取引先から干されても前進した3代目
高度経済成長のころ、山あいの岡山県津山市で、女性たちが集まってシャツのボタン付けなどの内職をする小さな縫製工場(こうば)が生まれた。2006年からはネクタイの製造をはじめ、今や日本の総理大臣が着用する地方発の高品質ネクタイブランドになっている。ブランドの名は「SHAKUNONE'(シャクノネ)」。それを手がける笏本縫製を、ダイナミックに成長させたのは、元美容師で3代目社長の笏本達宏氏(37)だ。事業承継とブランド展開の経緯について聞いた。 【動画】なぜ事業承継が大切なのか専門家に聞いた。
◆猛反対する母親を説得して家業を継ぐ
----笏本縫製の歩みを教えてください。 笏本縫製の主な事業はネクタイの製造ですが、元々は請負の縫製工場でした。 創業は1968年の4月。 これは創業者の祖母が言い張っているので、たぶんそれぐらいだと思います。 最初は法人ではなく、個人事業で始めたような感じで、シャツのボタン付けや穴開けなどの内職的な仕事を、自宅の一室で近所のお母さんたちを集めてやっていました。 会社というより内職場みたいな感じの成り立ちだったようです。 現在、創業から56年目ですが、ネクタイに着手し始めたのは2006年です。 それまでネクタイはまったくやっていませんでしたが、2015年に「SHAKUNONE'(シャクノネ)」というネクタイ専門のブランドを立ち上げます。 2024年3月には、スーツ事業「つやまスーツプロジェクト」も発表し、展開を進めています。 ----家業は、どのような経緯で継ぐことになったのでしょうか。 僕は最初、会社を継ぐ気はまったくなく、高校卒業後は自分で学費を払いながら専門学校に通い、美容師になりました。 国家資格も取ったのですが、母親の体調不良をきっかけに2008年に家業に入りました。 母親が病気になったとき、あらためて家業について考えました。 「家業のおかげで我々3人兄妹は大きくなれた。これを途絶えさせるわけにはいかない。だったら僕が家業を継ごう」という思いで決意しました。 母親は大反対でした。 「私の代で精いっぱいやって、できるとこまでやったら私の代で潰すから、あんたは継ぐな」と。 「私の代で作った借金をあんたに背負わせるわけいかん」とも言っていました。 でも、お互い意地っ張りなので、めちゃめちゃぶつかりました。 「たとえ駄目だったとしても、僕はまだ若いし人生やり直せる。 国家資格もある。本気で数年やって駄目だったら潰そう」と説得しました。