首位FC東京を撃破!主力流出も鹿島アントラーズはなぜ強い?
古傷でもある右ひざの怪我による戦線離脱を乗り越え、9月の声を聞くとともに約5か月ぶりにリーグ戦およびYBCルヴァンカップのベンチ入りメンバーに復帰した鹿島アントラーズのキャプテン、DF内田篤人(31)はキックオフ前に必ず第4審判員に挨拶へ向かうようにしている。 ルールに抵触すると理解していても、アントラーズが劣勢になるとベンチ前のテクニカルエリアに出て、チームメイトに身振り手振りで指示を送ってしまう。イエローカードの対象になる行為であり、第4審判員から「怒られているんだけどね」と苦笑しながら挨拶する目的を明かしてくれた。 「前に出ちゃうので言ってください。早めに注意してもらってまったく問題ありませんと一応、第4審判員には言っている。でも、やっぱりチーム全体で勝つ、と思うと、そうなっちゃうよね」 首位を快走してきたFC東京を、ホームの県立カシマサッカースタジアムに迎えた14日の明治安田生命J1リーグ第26節の前にも、内田は柿沼亨第4審判のもとへ挨拶に向かっている。それでも、勝つと負けるとでは天国と地獄の差が出る天王山で、無意識のうちに何度もベンチを飛び出した。 内田だけではない。チーム最年長のGK曽ヶ端準(40)も、副キャプテンのMF遠藤康(31)もテクニカルエリアへ足を踏み入れている。ピッチには立たなくとも、長くアントラーズを支え、常勝軍団の歴史と伝統を紡いできたベテランたちも一緒に戦っていた。笑顔を浮かべながら内田が続ける。 「苦しいときにみんながベンチの顔を見て、声を聞くことで走れるのならば声を出します。監督も言っていることだけど、経験のある選手、ソガさん(曽ヶ端)やヤス(遠藤)を含めて、ベンチの一体感というものがすごく大事なので」
大一番はアントラーズが2-0で快勝した。右コーナーキックからDFブエノ(24)が頭で先制弾を決めたのが開始わずか2分。その後もピッチとベンチが一体化するかのように、闘志を前面へ押し出した戦いぶりでFC東京を封印。後半33分にMFセルジーニョ(24)が追加点を叩き込んで勝負を決めた。 最大で9ポイント差をつけられていたFC東京との勝ち点差を、次節にも逆転可能な1ポイントに縮めただけではない。ルヴァンカップでベスト4に、天皇杯ではベスト16にそれぞれ進出。連覇を目指すACLでも、浦和レッズとともにベスト8に勝ち残っている。 4冠獲得をも視野に入れたアントラーズからは今夏、昨シーズンの新人王に輝いたMF安部裕葵(20)がFCバルセロナへ、左右のサイドバックでプレーできる安西幸輝(24)がポルティモネンセSCへ、そして昨シーズンに11ゴールをあげたFW鈴木優磨(23)がシントトロイデンVVへ移籍した。 さらにさかのぼれば、ロシアワールドカップに臨む日本代表に選出されたDF植田直通(24)が昨夏にセルクル・ブルージュ、DF昌子源(26)が昨年末にトゥールーズへそれぞれ移籍。FW金崎夢生(30)は昨夏にサガン鳥栖へ、DF西大伍(32)はこのオフにヴィッセル神戸へ新天地を求め、長く精神的支柱を担ってきた小笠原満男さん(40)も昨シーズン限りで現役を引退した。 チームの骨格が入れ替わったと言っても過言ではない状況下で、それでも時間の経過とともに調子を上げ、4月の対戦では1-3と完敗を喫しているFC東京にしっかりと借りを返した。強さを取り戻しつつある理由はどこにあるのか。内田は若手とベテラン・中堅のバランスのよさをあげる。 「僕が昔いたときの鹿島の強さに比べたらまだ、と思う人がいるかもしれないけど。いまはサッカー選手として年齢的に完成し切っていない若い選手、(三竿)健斗やブエノ、ワンちゃん(犬飼智也)とかがたくさんいるなかで、経験のある選手、今日の先発メンバーで言えば(クォン・)スンテ、レオ(・シルバ)、(伊藤)翔たちが上手く噛み合っていますよね」 クラブの黎明期からの方針を時代に合わせて柔軟に変化させ、的確な補強で穴を埋めてきたフロントの動きも見逃せない。かつては高卒や大卒の生え抜き選手をアントラーズカラーに育てる、10年スパンの計画を遂行してきた。日本人選手の海外移籍は、まったく前提に入れていなかった。 1996シーズンから強化の最高責任者を務めてきた鈴木満常務取締役強化部長(62)は、いまでは苦笑しながら「サッカー人生は一回限りですし、選手の夢でもある海外移籍を止めるつもりはありません」と語る。内田や大迫勇也(ヴェルダー・ブレーメン)、柴崎岳(デポルティボ・ラ・コルーニャ)らも送り出してきた過程で、生え抜きを育てながら補強も並行させる方向へ舵を切った。