伊那谷楽園紀行(13)成功した企画展、大いにウケた「はやぶさ」手作り模型
もちろん、時々、自治体がやらかしてネットで炎上するような「アマチュアだから、タダで」なんて気は毛頭無い。きちんとお礼はする。でも、そうした人々と協力して展示をする。できる限り、買ったり注文したりするのではなく、自分たちの手で作り上げるのは、より想像力が働く楽しい作業だった。 それが、上手くいった一つの例が2013年に開催した飯田線伊那市駅開業100周年を記念した企画展「飯田線マニアックス」だった。この時、まず捧が協力を仰いだのが鉄道ファンらによるグループ「田切ネットワーク」だった。捧の要請に応じて、メンバーは会場内に鉄道模型はもちろん、かつて使われていた鉄道電話までをも持ち込み展示した。 そんな展示スペースには、企画展が始まった当初、なにも置いていないスペースがあった。それも捧のアイデア。地元の人や訪れる各地の鉄道ファンが所有している飯田線にまつわる様々な物品を、借りて展示しようというものだった。 開会初日から、地元の人がかつての飯田線にまつわる資料を持ってやってきた。捧は、それを喜んでガラスケースの向こうへと展示した。自宅の押し入れの中に眠っていた写真アルバムや、資料がガラスケースの向こうに展示されている。それを、訪れた人々が興味深そうに眺めている姿を見て、資料を貸した人もまた、満足をしていた。 さらに、この展示期間中に話題になったものに「飯田線シミュレーター」がある。これも大阪に住む岡村昭太郎という男が、個人で作り上げたもの。飯田線の沿線を一人でプログラミングしたという。鉄道会社の運転士教育用のシミュレーターよりも精緻なシミュレーター。それがやってきた日には、親子連れを中心に来場者は途切れることはなかった。 また、捧は、来場者が見て楽しむだけで終わらせるつもりはなかった。伊那市創造館の敷地に、捧は「飯田線すごろく」をつくった。飯田線の全94駅のマス目が並び、「運輸区見学のため1回休み」(箕輪町の伊那松島駅)、「川下りで1回休み」(泰阜村の唐笠駅)など駅にちなんだマス目もある。これは、捧がどうしてもやりたかったものだった。 でも、マス目を印刷したものを屋外に設置しようとしたところ、業者の見積もりは「1枚3万円」。予算の中では賄えるものではない。半ば最初からそのつもりだったが、自分でプリントアウトして、1枚ずつラミネート加工した。94駅を並べる作業は、企画展の前日近くまでかかった。「素人臭さは否めないな」と思ったが、それでも訪れた子供だけでなく、大人までもが簡単にはゴールできないように工夫したすごろくを本気で遊んでいる姿を見て、してやったりと感じていた。