「オフレコ」とは、一対一の取材の駆け引きに使うものだが…記者と官僚の実態とは
◆本来のオフレコ 西村 メディア側としては、政権の考えや思惑に迫ることができる貴重な場ではある。もっともアメリカではその後、バックグラウンドルールが少し書き換えられました。発言者は匿名のままで仕方がないにしても、情報源の属性をもう少し具体的に書こう、と。 たとえば、「**について知り得る立場にあるが、△△の理由で名前を明かせない事情のある人物」というように。少しでも透明性を高めたいという狙いからでした。これなんかは、高官、幹部、筋といった表現が大量にあふれている日本の記事に比べるとまだ親切だと思いますが。 佐藤 でもロシアの場合はそもそも、複数人がいたら決してオフレコとは言わないな。「二人の間でなら秘密の話も、三人で話せば翌日には隣の犬も知っている」という感覚が常識です。 西村 そうだね(笑)。本来はオフレコって、一対一の取材の場において、相手がオフレコを条件に提起して、こちらがそれを飲むか飲まないかっていう、そういう駆け引きに使うものです。
◆官僚を引っかける手段 佐藤 でもさ、私なんかは人が悪いからこう思う。そういう記者と取材源のオフレコルールが厳しいところなら、性的な関係を持って情報源にしちゃうほうが早いって。公にできない、社会的に糾弾されるような手段を使った場合、社会的に全生命を失うのは官僚だからね。「私はいつでも本当のことを話せるわよ」と耳元で囁くだけで、ずっと情報源として使えるんじゃないかって。 西村 それと同じかどうかは別にして、実際に有名な話はいくつかあるよね。ホワイトハウスの報道官と、有名な新聞社のホワイトハウス担当記者が恋人関係だったとか。これはアメリカの政治ドラマのモデルになったぐらい有名な話。あと私も直接取材したクリントン政権時の国務省では、CNNの花形キャスターと恋仲だった報道官もいたな。 佐藤 インテリジェンス機関によっては、こういう手法をとる場合もある。そして引っかかる官僚は少なくない。実際にそういう例も見聞きしました。 西村 小説や映画でもそういうストーリーは多いよね。でもこれってやはり難しい問題だと思う。私は最初に、本来、情報源と記者とは友だちにならないし、なれない、と言ったでしょう。それは恋愛感情でも同じことが言えると思っている。 関係を隠さずに世間に公にすればいいという議論がアメリカでは実際にあったのだけれど、そう簡単な問題でもない。やはり距離は取ったほうがいい。だから取材者と情報源で、そういう関係に持ち込んでオフレコの特異点になろうとする人間が寄ってきたら、それはもう断ち切るしかないと思う。 ※本稿は、『記者と官僚――特ダネの極意、情報操作の流儀』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
佐藤優,西村陽一