丸紅から出向の社長は、家族で長野に移住し、覚悟を示す…。ヨーグレット・ハイレモンの製菓会社が「明治から独立」で起きた変化
これに対して、「せっかく変わるタイミングなので、みんなで変えていきたいのです。すでに活躍していたり、期待されていた人材だけでなく、これまでは力を発揮するチャンスがなかった人も含めて。前に進もうとしている以上、分け隔てなく全員で変えていきたい」と山下社長。 実際、思わぬところから、「この人がいないと会社が大変」という存在が次々に現れているという。 ■次なる主力の育成と伝統の継承を 現在、アトリオン製菓の売り上げ上位は、年間7億円のパチパチパニックが3位、2位がハイレモン、1位がヨーグレットの順番だ。いずれも堅調に推移しているそうだが、そこに並ぶ主力商品として育成を目指すのが「コーラパンチ」だそうだ。あまり知られていないが、ヨーグレット、ハイレモンと同じタブレットシリーズで、10年以上にわたり根強い支持を得ている商品である。
ただこれまでは、駄菓子コーナーで3枠を確保することが難しいため、存在感が希薄だったという。消費者に、「こんなのあったんだ」と言われることが悔しい、と山下社長。「コーラ味の中に複雑なフレーバーの調和があり、子供でも大人でも楽しめるお菓子です。新たな軸となるブランドとして育てていきたい。成長の余地は大いにあります」と意気込む。 一方で、ヨーグレットとハイレモンの価値を守り続けることも重要な使命だと話す。
「これまで40年以上生き残ってこられたのは、“世代を超える”お菓子だからです。親自身が好きで、かつ子供にも安心して与えられる。その価値は容易には真似できません。自分が食べてきておいしいと思っていたものを、子供が食べておいしいと言っている。その姿は、親にとって特別な意味を持つのではないでしょうか」 たしかに、空白期間が空いたとしても、親になって再び子供へと買い与えるサイクルが起きている。それこそが、ヨーグレットとハイレモンという商品の最大の強みなのかもしれない。グミという新たな形で大人世代に手を伸ばしながら、タブレットならではの価値は大切に守る。伝統と革新――。一見相反するその2つの追求が、アトリオン製菓の成長の両輪となっているのだ。
250人の社員たち全員で紡ぎ出す新しい物語は、まだ始まったばかり。成長の手応えを胸に、今日も挑戦は続いている。
笹間 聖子 :フリーライター・編集者