丸紅から出向の社長は、家族で長野に移住し、覚悟を示す…。ヨーグレット・ハイレモンの製菓会社が「明治から独立」で起きた変化
営業も、これまで明治産業のオリジナルとして売りにいく商品はごくわずかだったところを、社内から次々と新しい商品アイデアが生まれる環境になって、やりがいが高まっているそうだ。 そんなわけで、彼らのやる気にかなり火が付いている状態だそうだが、新商品開発の難易度はもちろん高い。手痛い失敗をしないよう見守り、コントロールしていくのも、自分の大切な役目だと高宮さんは考えている。 ■出向社長が選んだ“全員野球”の道
ところで同社の山下社長は、丸紅からの出向である。丸紅にとって、同社は菓子製造進出の第1号案件であり、これに合わせ、丸紅でプロジェクトのリーダーを務めた縁から社長に抜擢された形だ。 「ってことは、いつか丸紅に戻るってことですか? このままずっと、長野県に骨を埋める、なんてことはないですよね?」 担当編集のO氏が、好奇心むき出しの顔で質問した。聞き方ってものがあるでしょ……と冷や汗をかく筆者をよそに、山下社長は苦笑しながらも、次にように答えてくれた。
「もちろん出向である以上、いつか丸紅に戻る可能性はあります。ですが、自分としては『そうなるだろう』という気持ちは持たないようにしています。 社長に就任することになり、3人の子供と家族で生活拠点を長野に移したのも、その覚悟を自分自身に示すためです。長野はとてもいい場所で、移住してから馴染みの居酒屋もできました。今では、社員も知らないおいしいお店や穴場スポットも知っているくらいです(笑)」 そして、山下社長はこう続けた。
「長野には素晴らしいところがたくさんあります。そのよさは、内側にいる人ほど気づかない部分も多い。外から見るからこそ、1つ1つが美しく、輝いて見えるんです。それは、アトリオン製菓も同じではないでしょうか」 外から来た人間だからこそ、わかるよさがある。会社も、街も同じなのだろう。 実際、組織がよい方向に向いているのは、山下社長の存在も大きいと高宮さんは言う。着任からわずか1年半で、すでに長年働いているかのような距離感を築いており、工場スタッフから営業まで、多様な社員それぞれにわかりやすく方針を伝えている、と。