共通言語は手話。スターバックスが“多様性”を体現する店舗をつくった理由
店づくりのポイントは「聴覚に頼らないオペレーション」
――他の店舗とは違う、nonowa国立店ならではの工夫はありますか。 吉田さん(以下、敬称略):まず、nonowa国立店オリジナルのロゴデザインとして、指文字で「STARBUCKS」を表現するサインが採用されていて、パートナーは胸元にこのサインが刺繍されたエプロンを着用しています。 壁一面に描かれたカラフルなイラストは、コーダ(※)のアーティスト・門秀彦(かど・ひでひこ)さんの作品です。さまざまな手話が楽しく表現されていて、よく見ると「ラテ」や「フラペチーノ」など、スターバックスならではの表現も描かれているんですよ。 ※「Children of Deaf Adults」の略で、耳の聞こえない親に育てられた聴者の子どもを指す。聴者はろう者の対義語で、聴覚に障害のない人を指す。 吉田:また、レジでは注文がスムーズにできるよう、通常のメニューに加えて、指差しメニューもご用意しています。イートインやサイズ、カスタマイズの有無など分かりやすく表記されたもので、英語表記もされているので、外国人のお客さまとのコミュニケーションにも役立ちます。 ドリンクが完成すると、受け取りカウンターの側に設置したデジタルサイネージ(※)に、レシートに記載された3桁の番号が表示されます。 ※屋外・店頭・公共空間・交通機関など、あらゆる場所で、ディスプレイといった電子的な表示機器を使って情報を発信するメディアのこと ――受け取りカウンターのそばには、簡単な手話が学べる仕掛けもされていますね。 吉田:ドリンクを待っている最中、下を向いたり、スマートフォンをいじったりしていると、自分の番号が表示されていることに気付かないこともありますよね。目線よりも少し高い位置に表示されることで自然と注目されますし、お客さまには楽しみながら手話に触れてもらえたいという思いもあります。 ――表示を見ながら手話をやってみたくなります。 吉田:そうですね。実際に表示を見ながら練習しているお客さまもたくさんいらっしゃって、それを見たパートナーが「こうやるんですよ」とレクチャーするなど、コミュニケーションが生まれています。 基本的にはお客さまとパートナーが、直接アイコンタクトやコミュニケーションを取ることを大切にしているので、指差しメニューやデジタルサイネージは、あくまでも接客の補助ツールとして活用しているイメージです。 ――他にも工夫されている点はありますか。 吉田:nonowa国立店は手話が共通言語のため、全体的に音以外の伝達方法(視覚情報や振動)を取り入れた店舗づくりを行っています。 例えば、手話の動きを邪魔しないよう、テーブルは低く、角が丸いものを導入しています。また、お互いの表情が分かりやすいよう、通常の店舗よりも照明が明るく、カウンターや壁も白で統一しています。 バックルームの壁一面には、ミーティングの内容を記録するための大きなホワイトボードや、衝突防止のミラーを設置している他、豆の鮮度を管理したり、ヘルプを呼んだりする際に文字や光、振動で知らせるデジタルウォッチを導入しています。 それから、即座に意思伝達ができるよう、信号機のように色の識別で情報を伝える工夫もしています。 ――こうしたお店づくりの工夫はどうやって生まれたのでしょうか。 向後:実際にオープンする前に、「サイニングアワー」「サイニングデー」と称して、2年ほどかけて、聴覚に障害のあるパートナーによる試験的営業を行ってきました。その中で当事者から集めた「もっとこうしてほしい」という声や要望を取り入れながら、環境を整えていきました。