アウトバーンで288km/h出た! モータージャーナリストの桂伸一が試乗 2008年モデルのV8ヴァンティッジは、どんなアストン・マーチンだったのか?【エンジン・アーカイブ「蔵出し記事シリーズ」】
荒ぶるアストン!
【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2008年8月号に掲載されたアストン・マーティンV8ヴァンティッジの国際試乗会のリポートを取り上げる。05年発売のアストン・マーティンV8ヴァンティッジが4.3から4.7に排気量アップ等の改良でパワーアップ! ニュルブルクリンク近郊のワインディングをメインに行われた国際試乗会では前日のニュル24時間でクラス優勝した桂伸一氏がリポートを担当した。 【写真5枚】2008年モデルのアストン・マーチンV8ヴァンティッジを写真で見る ◆まるでポルシェのように エンジンを始動しようとキーを捻るべくステアリング・ポストに手をやると、何やら雰囲気が違う。一瞬戸惑うが、センター・コンソールにあるアストン・マーク入りスターター・ボタンを見て謎は解けた。そう、DBSと同じ新型の四角いキー本体をスロットに挿入して、押す(最短は2秒間)。そうするとセルが回り、独特の爆発的点火儀式となる。 アストン・マーティンにとってニュルブルクリンクの新たな基地となるテスト・センターから、V8ヴァンティッジが次々とスタートして行く。ニュル24時間レースの余韻が残る翌朝、アジア‐パシフィックのジャーナリストは、4.7リッターにスケールアップした新エンジンを搭載する新型V8ヴァンティッジのテスト・ドライブを開始した。 アイフェル山中には、ニュル同様の、アップダウンとテクニカルなレイアウトが入り組んだ公道がある。のどかだが、アベレージ・スピードは日本では考えられないほど高い。そういうカントリー・ロードをまずは流しながら4.7リッターの素性を探る。 これまでの4.3リッターとの明らかな違いは、低回転域でのトルクにあることはゼロ・スタートするだけで明確に感じる。6段MTモデルで比較すると、従来の4.3リッターはクラッチ・ミート時の回転が低いとストールしかける。4.7リッターはそこが違う。まるでポルシェのように……とは、たとえが抽象的過ぎるが、アイドリングのままクラッチ・ミートが可能なほど低速で粘り強く、誤ってポンとクラッチ・ペダルから足が離れると、さすがはトランスアクスル、リアにも十分に荷重が加わっているため、ホイール・スピンもなしに、ドッと背中を蹴飛ばされ、ダイレクトに押し出される。つまりは、従来よりもスタート時の操作が寛容になった。ちなみに、前後重量バランスは、2名乗車で50対50。空車ではなく、実用で理想的な荷重配分になる仕上がりだ。 ギアボックスは従来通り6段マニュアルと、“スポーツシフト”と呼ばれるセミ・オートマチック(ロボタイズド)の2本立て。2ペダルのスポーツシフトはイージー・ドライブゆえに世界的にも普及している。が、“意のままに”という意味で、個人的にはオーソドックスな3ペダル6段MTを選びたい。 ボア×ストロークを91×91mmのスクエアとした4735ccV8を、一応のリミットである7000rpmまで引っ張り上げる。4000rpm手前でまずはテール・パイプ内のバルブが開き、低音だったV8サウンドは荒荒しい高周波に変化。さらに5200rpmでもう一段盛り上がり、V8の雄叫びをあたりに撒き散らしながら一気にレブ・リミットに達し、シフトアップを促すインディケーターが鋭く点灯する。 ◆N24と同じ感覚 舞台はアウトバーンに移り、各ギアでフル加速を試す。1速75、2速120、3速160、4速200、5速250km/h、とハイ・ギアードなここまでの展開は、4.3リッターのV8ヴァンティッジ・ロードスターに試乗したときのメモと変わらない。6速は、大型トラックに行く手を阻まれたため、それ以上突きつめることはやめたが、メーカーのデータによると288km/hと、4.7リッターは最高速が10km/hほど伸びている。空気の壁を切り裂いて突き進むエンジン出力の威力だ。 つい数時間前までニュルのバック・ストレッチ約3km、アクセルを床まで踏み込んでいた情景が蘇る。レース仕様のV8ヴァンティッジN24は車重1350kg。標準から250kgも軽量化されている。だから加速も旋回も制動も、アスリートのように俊敏だった。 N24の最高速はストレート・エンドの下りで記録される270km/hオーバー。つまり、最高速に関しては4.7リッター化されたロード・カーのヴァンティッジのほうが速い。車重は1630kgあるが、4.7リッターV8は、4.3リッターのままのN24の415psを上回る425psと47.9kgmのスペックを誇る。最高速に向けてグイグイ背中を押し出される強力な加速Gと、荒れた路面でもリフトを感じさせることなく、吸い付くように最高速に向って行くその安定性は、ロード・カーもN24も同じ感覚だ。 4.7リッター化にあたり、もうひとつ大きな変化があった。乗り味である。厳密にはそれは結果論で、目的はダンピングの適正化にあったはずだ。4.3リッターの特にクーペは、微低速域で、サスペンションのスムーズなストローク感に欠けた。凹凸を踏みながら加速に移ると、駆動輪であるリア・タイヤがドタバタと暴れたのだ。 その点、4.7リッターはサスのストローク感そのものがスムーズで、入力を正確にビルシュタイン製ダンパーが減衰して受けとめる。スムーズにストロークするから、乗り味そのものもスムーズになっている。従来からクーペよりもロードスターのほうがバネ・レートその他諸々の関係から滑らかな乗り味だったが、新型の場合、クーペはより良く、ロードスターはさらにコンファタブルである。 ちなみに、クーペで30%以上、ロードスターは20%以上強化したスポーツパックの設定もある。日本での使用を考えると標準で十分だが、200km/hが現実の欧州で乗ってみると、“走り中心”に考えるのならこっちか、という気になる。 ハンドリングは正確さに鋭さをプラスした。狙ったラインに乗せやすくなっている。加速時に10%、アクセル・オフ時に30%のロック率を持つLSDは、安定方向に効くほか、車輌安定装置のDSCをOFFにすると、旋回中、容易にパワー・スライドを誘発する。フロントのグリップによるきっかけと、あり余るエンジン出力により、このテのプレイはお手のモノだ。通常はもちろん、DSCはONの安定走行をお薦めする。 文=桂伸一 写真=ASTON MARTIN ■アストン・マーティンV8ヴァンティッジ 駆動方式 FR、トランスアクスル方式 全長×全幅×全高 4380×1865×1255mm(クーペ) ホイールベース 2600mm 車両重量 1630kg(クーペ、MT) エンジン形式 オール・アルミV8DOHC32バルブ 排気量 4735cc ボア×ストローク 91×91mm 最高出力 425ps/7000rpm 最大トルク 47.9kgm/5750rpm トランスミッション 6段MT/6段セミAT(ロボタイズド式) 燃料タンク容量 80リッター サスペンション前後 ダブル・ウィッシュボーン/コイル ブレーキ 通気&溝式ディスク前355mm/後330mm タイヤ・サイズ 前235/40ZR19 後275/35ZR19 タイヤ銘柄 ブリヂストン・ポテンザ (ENGINE2008年8月号)
ENGINE編集部
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