「誰でも起きうる子どもの車中置き去りに要注意」小児科医が発信する“熱中症事故防止策”とは #こどもをまもる
「チャイルドシートにクマのぬいぐるみを置く」アナログな対策で救える子どもの命
――このようなうっかり事故を防ぐには、どのような方法があるのでしょうか。 坂本昌彦: まず、ミスをするという前提で物を考えましょう。アメリカ小児科学会の提言をご紹介します[5]。まず、財布や携帯電話など、日頃自分のバッグやポケットに入れているものを後部座席に置く。すると、財布や携帯電話を取るときに必ず後部座席を開けます。そのとき、お子さんの存在を確認できますよね。 あとは、チャイルドシートにいつも大きなクマのぬいぐるみみたいなものを置いておきます。お子さんが乗るとき、そのぬいぐるみを助手席に移す。そうすれば、助手席にクマのぬいぐるみがあるということは、子どもが乗っているということになります。このようにミスをする前提で、対策を立てることが重要です。 熱中症に限りませんが、事故の予防には三つの「E」が大事だと言われています。それは「教育(Education)」「法制化(Enforcement)」「環境整備(Environment)」の三つです。教育は、保護者に“こういうことを注意してくださいね”と啓発すること。法制化は法律や条例などで強制力を設けることを意味します。例えば、飲酒運転を厳罰化する。チャイルドシートの使用を義務付けするなど。そして、事故が起こらないための環境整備です。例えば、誤飲事故を防止するのであれば、小さなおもちゃを飲み込まないよう、企業があらかじめ苦い成分を塗っておいて、子どもが口にするとペっと出すというような取り組みです。こういった複数の取り組みを組み合わせることが、事故予防ではとても大事です。 もちろん、園バスを含め、全ての自動車に事故を防ぐためのIT技術を活用することは、大事な取り組みです。人を検知し、運転手のスマホに知らせてくれるセンサー技術などはとても有効だと思います。しかし、明日からすぐにできることではありません。今すぐできることとして、先ほどお伝えしたアナログな対策も活用いただければと思います。 ――そうした知識は保護者だけでなく、学校の先生、あるいは高齢者の方、地域の方など幅広い方々が知らなければいけませんね。 坂本昌彦: そうですね。共働きのお父さん、お母さんも、子どもの面倒を見てくれるおじいちゃん、おばあちゃんも、世代を超えて子育ての知識をアップデートする。これがすごく大事なことだと思います。 ----- 坂本昌彦 愛知県生まれ。2004年、名古屋大学医学部を卒業。専門は小児救急と渡航医学。東日本大震災直後に福島やネパールで勤務した後、長野県佐久医療センターで小児科医として勤務し、現在に至る。診療の傍ら、帝京大学公衆衛生学研究科博士後期課程でヘルスコミュニケーションの研究を行っている。各メディアでも積極的に発信しており、2022年、Yahoo!ニュース個人オーサーアワード大賞を受賞。 文:冴島友貴 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました) 「#こどもをまもる」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。 子どもの安全を守るために、大人ができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。 <参考文献> [1] 黒澤 寛. 【知っていますか?小児科領域のスポーツ障害】急性スポーツ障害 熱中症. 小児科診療. 2020 2020.02;83(2):139-44. PMID: 2020136297. [2] 日本スポーツ振興センター. 学校の管理下の熱中症の発生傾向. 2014 [3] JAF. 実験検証「JAFユーザーテスト」(真夏の車内温度). 201 [4] Luethi M, Meier B, Sandi C. Stress effects on working memory, explicit memory, and implicit memory for neutral and emotional stimuli in healthy men. Front Behav Neurosci. 2009;2:5-. PMID: 19169362. doi: 10.3389/neuro.08.005.2008. [5] Pediatrics AAo. Prevent Child Deaths in Hot Cars. 2020.