夏休みの自由研究が、世界的発見へ――ニホンオオカミの論文を書いた小学生の探究心 #令和の子
「小学生が古い標本の話を聞きたいということにびっくりしたと同時に、どういうことだろうと、よく理解できなくて、結局、メールで質問を送ってもらうことにしました」 後日、日菜子さんは、コンクールに応募直前の自由研究のレポート原稿を小林さんに送り、意見を求め、仕上げていった。送られてきた原稿を読み、小林さんは目をみはった。 「参考資料も入れると(この時点で)70ページ以上ある長いものでした。ですが、おもしろくて、受け取った日の夜には読んでしまいました。大学生のレポートでも通用する内容だと思いました」 日菜子さん、小林さん、川田さんの3人が本格的な科学論文に取り組み始めたのは、日菜子さんが小学6年生になった2022年4月になってからだ。当初の相談は基本的にメールで行われた。まず、日菜子さんが書きたいことを箇条書きにしたものを小林さんに送り、それに小林さんや川田さんが返信し、調整していった。
8月、3人はつくば市の自然史標本棟に集まり、M831を前にして論文の方向性について意見を交わした。M831のラベルは科博に移されたときにつけられたもので、それ以外の番号もついていた形跡があった。また、M831の剥製が廃棄されたという標本台帳の記述もある。それらの矛盾点を解消するためにも、小林さんは日菜子さんに、M831がイヌ属の他の動物である可能性を潰したほうがいいと提案した。
「学校の授業もあるので、すべてを調べるのは難しいかなと思っていましたが、日菜子さんはすぐに調べ、その年の冬には分厚い資料のコピーが送られてきて、とてもびっくりしました」 小学生の日菜子さんは論文を書いた経験がなかったため、論文の草稿は小林さんが書き、日菜子さんと川田さんの意見を聞きながら修正していった。資料がそろい、論文がまとまる頃には、M831は1888年に上野動物園に来園した岩手県産のニホンオオカミであることが確認された。 この時期、日菜子さんは中学入試の受験勉強もしていたが、「論文の作業がいい息抜きになりました」と振り返る。