夏休みの自由研究が、世界的発見へ――ニホンオオカミの論文を書いた小学生の探究心 #令和の子
小5のレポートで文部科学大臣賞受賞
資料ではこれ以上、M831の正体には迫れない──。そう考えた日菜子さんはもう一度、M831の剥製を見たいと科博に見学を申し込むメールを送った。科博側で対応したのが前出の川田さんだった。M831についての最初の返信を書いたのも川田さんで、当初はM831がニホンオオカミではないかという日菜子さんの説について否定的な考えだった。 「剥製はつくり方次第で形状などを変えることができます。あの剥製がニホンオオカミというのはさすがに考えすぎではないかと思いました」
そう考えつつも、川田さんは本気で調べたい日菜子さんの熱意を感じ、見学にも対応した。M831の標本を詳しく調べさせるだけでなく、M831に関連する資料も見せた。その中の一つが明治時代に書かれた哺乳類の標本台帳だった。 この標本台帳は、東京国立博物館が明治・大正時代に東京帝室博物館と名乗っていたときの所蔵品を記していた。標本台帳にはM831が「やまいぬ」として記載されていたものの、台帳にはM831と書かれた欄に赤い斜線が引かれ、廃棄を示すスタンプも押されていた。 この謎の真相はわからなかったものの日菜子さんは、「M831はニホンオオカミの剥製だと思う」と自分なりの結論を示し、小学5年生の夏に、自由研究作品のレポートとしてまとめた。 このレポート作品は、2021年の図書館振興財団が主催する「図書館を使った調べる学習コンクール」で文部科学大臣賞を受賞した。川田さんは、「ここまでまとめたのなら、ちゃんと論文としてまとめてもいいのでは」と日菜子さんに論文執筆の話をもちかけた。 日菜子さんに論文にするように勧めた研究者はもう1人いた。公益財団法人山階鳥類研究所研究員の小林さやかさんだ。小林さんは、鳥の標本についての研究をしており、M831と同じ時代に東京帝室博物館に所蔵されていた標本についての知見を持っていた。
2人の専門家の協力を得て論文に取り組む
日菜子さんは、科博で見せてもらった標本台帳について、さらに詳しく知りたいと、インターネットで調べていたところ、小林さんの書いた論文に行きつき、電話で小林さんに連絡を取った。予期せぬ小学生からの問い合わせに、小林さんはとても驚いたという。