夏休みの自由研究が、世界的発見へ――ニホンオオカミの論文を書いた小学生の探究心 #令和の子
行動力、情報収集力、資料の読み解き方に驚嘆
論文は、科博が発行する研究論文集『国立科学博物館研究報告』に向けて提出され、2023年3月9日に受領された。だが、論文集に掲載されるためには、同じ分野の専門家の査読(専門家が読んで行う査定)を通過しなければいけない。 論文は、査読によって大きな修正を2回求められた。1回目は構成の不備などを指摘され、2回目では、剥製の形態などについて検討することを求められた。必要な修正を済ませ、論文が受理されたのは、受領から9カ月以上経った12月20日のことだった。 学術論文の著者になることは小中学生にとって異例のことだ。しかし、この成果の陰には、つねにそっと支えてきた両親の存在がある。 両親は特別、生物に興味があったわけではない。日菜子さんが3歳のとき、たまたま見せた動画が彼女の絶滅動物への関心のきっかけになった。科博をはじめ、関連する博物館や場所に行ったのも、すべて日菜子さんの要望をかなえるためだ。 調査への関わりも些細なものだ。自由研究や論文の調べ物などでメールを出す際、文面に失礼がないか事前にチェックしたり、子どもの入れない国会図書館に資料があるとわかると、代わりに行ってコピーしてきたり。日菜子さんが年齢的にやりたくてもできないことをサポートしてきた。 日菜子さんの父親が感慨深そうに語る。 「これまで本人が自主的にやりたいことは止めないで、ほめるようにしてきました。剥製や先生方に巡り合って、ここまでやってこられてよかったなと思います」
科博の川田さんは、日菜子さんとの共同研究を通して、彼女の行動力、情報収集力、資料の読み解き方に驚かされ、勉強になったことも多かったと言う。 「日菜子さんは、標本台帳に記されていたM831の買価が間違っていることを示す資料まで発見してきたりして、とても驚きました。彼女とのやり取りは楽しかったです。今後も、自分がおもしろいと思うものを見つけて、取り組んでいってほしいです」 現在、日菜子さんはさらに研究を進めており、M831がニホンオオカミであることを示す証拠をさらに積み上げていきたいと語る。 「明治時代などの資料を調べていけば、ニホンオオカミが生きていたころの様子がもっとよくわかると思いますし、剥製がつくられた過程からも検証できるのではないかと考えています」 --- 荒舩良孝(あらふね・よしたか) 1973年、埼玉県生まれ。科学ライター/ジャーナリスト。科学の研究現場から科学と社会の関わりまで幅広く取材し、現代生活になくてはならない存在となった科学について、深く掘り下げて伝えている。おもな著書に『生き物がいるかもしれない星の図鑑』『重力 波発見の物語』『宇宙と生命 最前線の「すごい!」話』など。