夏休みの自由研究が、世界的発見へ――ニホンオオカミの論文を書いた小学生の探究心 #令和の子
明治期のニホンオオカミの記録を資料館で確認
つくば市での見学ツアーの際、日菜子さんは案内していた科博の職員にその場で「これはニホンオオカミじゃないですか」と聞いた。だが、そのときは「わかりません」という返答で終わってしまった。それでも、剥製の正体が気になった日菜子さんは、翌日、科博にメールで問い合わせた。 科博から返信が来たのは、メールを出して3カ月後の、2021年2月12日。返信には、剥製の登録番号がM831で「ヤマイヌの一種」とされた個体であること、明治22(1889)年には剥製として製作されていたこと、その前には上野動物園で飼育されていた可能性があることなどが書かれていた。 このメールを読み、日菜子さんは一層詳しく調べたいという気持ちが芽生えたという。 「小2で調べたときに、ニホンオオカミのことをヤマイヌと記述することもあると書かれた記事も見つけていて、少なくともニホンオオカミの血が入っている動物ではないかと思いました」 科博からの返信を頼りに調べてみると、明治21(1888)年7月から明治25(1892)年までの間に上野動物園で2頭のニホンオオカミが飼われていたことがわかった。しかし、日菜子さんが科博の自然史標本棟で目にした剥製(M831)の情報と比べてみると、どちらもあてはまらないように思えた。調査に行き詰まった日菜子さんが注目したのは、このとき読んだ本に書かれていた資料だった。
「ある本の中では、『動物録』という過去の資料をもとにして、上野動物園で2頭のニホンオオカミが飼われていたと書かれていた。なので、『動物録』を見たら何かわかるのかなと思いました。でも、『動物録』がどうやって見られるのかわからなかったので、父に相談しました」 相談を受けた父親が国会図書館に問い合わせると、『動物録』は東京国立博物館の資料館にマイクロフィルムの形で保管されていることがわかった。日菜子さんは父親と一緒に東京国立博物館の資料館に行き、『動物録』を確認した。 「『動物録』は明治時代に書かれたものなので、文字がくずし字みたいになっていて、最初は何が書いてあるのかわかりませんでした」 父親の力も借りながら解読していったが、『動物録』を調べてみても、2頭のニホンオオカミ以外にM831の候補となる新たな動物を探しあてることはできなかった。