【中学受験】「進学先の悪口を言う母親にはなりたくない」連続不合格を経験した2月。役立ったのは自分の親への葛藤体験
真っ黒なオセロを一つずつ白へひっくり返すように、進学先が納得できる理由を探して
おおた 入試が終わった直後から現在まで、お母さんの気持ちはどんなふうに変化していったのでしょうか。 鳥井 進学先の創立者の名前を聞いたときに、娘が「あっ、知ってる!」って。歴史漫画か何かで読んだことがあったらしくて、それを改めて見てみて、「やっぱりそうだ!」って、漫画を読み返して。私も名前くらいしか知らなかったんですが、いっしょに勉強して。そういうふうにして、何か、動き出したんですよね、本人が(涙)。娘の中で、そういうフラグがいくつも立ち始めたんです。 おおた この学校に決まった理由みたいなものを、一つ一つ見つけていくわけですね。あとからね。 鳥井 はい。この学校を自分たちにとっての正解にするというか……。もう、私の中で、真っ黒になっていたオセロの盤上を、一つ一つ白にひっくり返していくような作業を、緻密にやりました。むりやりでも。いろんな情報を頭に入れて、ここでよかったんだって。自分の納得できる条件を……(涙)。 おおた 真っ黒なオセロを一つ一つ白に変えていって、「ようやく1列白がそろった!」みたいな。 鳥井 かわいい制服に袖を通した娘といっしょに「へー、こういう構造になってるんだね」なんてはしゃいでみたり。ちょうど高大連携のニュースもあって、その提携先が、娘が興味のある分野に強い大学だったりもして。実際にそこに行くかは別にして、第1志望とか第2志望に行ってたら、この進路はなかったなと思えました。内部進学で行ける大学にも似たような学部があります。ほかの学校に行ってたら、そういう選択肢は得られませんでした。そのことをたしかめるために、落ちた学校の提携先の大学の学部を一つ一つ調べたりして、自分を納得させていきました。第1志望の学校の有名大学への進学実績には目を見張るものがありますが、そういう大学に娘の行きたい学部がどれだけあるのかを調べたりして、実はあんまりないことがわかりました。むしろ地方の私大とかのほうが強かったりします。だとしたら、なんかその、私はいままで大学進学の指標の何を見てたんだろうって思うようになりました。 おおた 一つ一つ証拠を積み重ねて、そこまでたどりついたんですね。今回の中学受験の経験がなかったら、あるいはすんなり第1志望に合格していたら、そんなこと考えもしなかったでしょうからね。 鳥井 本当にそうです。 おおた お嬢さんのこれからの人生を応援していくときの、お母さんの視野の広さにきっとなると思います。それはすなわち選択肢の広さというか、いろんな魅力的な生き方、仕事だけじゃなくてもっと広い意味での生き方を肯定的にとらえた応援ができるんじゃないかと思います。鳥井さんご自身もそのお母様との葛藤をいまだに抱えているなかで、いやいやそんな狭い価値観ではなくて、もっと視野を広げれば、単純には序列化できない、いろんな生き方や進路があるんだっていうことを確認できて。いま私、なんかすごく勝手な解釈を展開してしまっているんですけど、鳥井さん自身がお母様との葛藤を抜け出す糸口にもつながるんじゃないかという気がしています。 ■鳥井さんの中学受験の全容は『母たちの中学受験』へ 入試直前・本番期の鳥井さん親子に何が起きたのか、それをどうやって乗り越えたのか……。中学受験を終えたときにこみ上げてくる、後悔、反省、「たられば」の数々……。中学受験が終わってからようやくわかる「納得できる合格」のためにいちばん大事なことは何か? その全容は、12月4日発売『母たちの中学受験』(小学館)で明らかになります。 【おおたとしまさ】 教育ジャーナリスト 教育ジャーナリスト。リクルートでの雑誌編集を経て独立。数々の育児誌・教育誌の企画・編集に係わる。現在は教育に関する現場取材および執筆活動を精力的に行っており、緻密な取材、斬新な考察、明晰な筆致に定評がある。テレビ・ラジオなどへの出演や講演も多数。中高教員免許をもち、小学校教員や心理カウンセラーとしての経験もある。著書は『勇者たちの中学受験』『ルポ名門校』『ルポ塾歴社会』『ルポ教育虐待』『不登校でも学べる』など80冊以上。