第2のハリポタ? 英語圏600万部を記録、全米が熱狂する“ロマンタジー”小説 日本でもブームとなるか
■本書のヒットからアメリカ出版業界で確立された“ロマンタジー”ジャンル
漫画家・コマkomaさんが「殺戮ハリー・ポッター」と評したこの作品の魅力のひとつは、誰もが無理だと思う華奢な女の子が、屈強な男子たちが次々と脱落していく訓練を生き延び、気づけば誰も為しえなかった偉業を遂げるという、痛快な逆転劇であるところだ。言うなれば、近年、オンライン小説やWEBコミックで人気の「最弱ジョブの○○が実は最強だった」の展開だ。 どの世界にもハリポタにおけるドラコのようなヤツはいるもので、本書にも主人公ヴァイオレットを目の敵にし、ことあるごとに邪魔をしてくるヤツが出てくる。それがジャックだ。力こそが全てといったジャックは、か弱そうなヴァイオレットが竜の騎手を目指していること自体が気に食わない。そんなジャックの横やりをことごとくかわし鼻を明かすシーンは実に爽快で、何度やり込められても執拗にヴァイオレットを追いかけますジャックの存在は、この物語に欠かすことのできない極上の「かませ犬」と言ったところ。本書には他にもお調子者のリドック、優等生のリアム、竜の学者カオリ先生など、いわゆる学園ものに“あるある”の個性豊かなキャラクターが多数登場し、前述の読書会でも参加者が好きなキャラクターを言い合う様子もあった。 また、生死を分ける戦いを共に乗り越えたことによる「吊り橋効果」なのか、幼なじみのデインや親同士が因縁を持つゼイデンといったイケメン先輩たちと繰り広げる、ロマンス展開は本書の肝であり、“ロマンタジー”と呼ばれる所以だ。“ロマンタジー”とは、過激な官能描写を含む海外の恋愛小説を意味する「ロマンス小説」と『ハリー・ポッター』に代表される魔法や幻想の世界で物語が展開される「ファンタジー小説」の両要素を併せ持った作品を指す言葉。 ヴァイオレットのベッドシーンで高揚するあまり超能力が発動して窓ガラスを粉々にしてしまうあたりは、“ロマンタジー”ならではの描写だ。また、前述の東方さんによればこれまでにもあったロマンチック・ファンタジー小説を、 “ロマンタジー”というジャンルとして確立したのが本書だと言う。 「アメリカの出版業界では本書の影響で”ロマンタジー”がジャンルとして確立し、前述の書評サイト『Goodreads』のベスト投票では昨年新たに“ロマンタジー”部門が設けられ、2位に10倍以上の差をつけて1位になりました」(早川書房書籍編集部・東方綾さん) ここまで激しくはないものの、やや官能的なシーンを含むファンタジー小説は、“なろう系”を筆頭に(「小説家になろう」など小説投稿サイトに投稿されたものを原作とした作品)日本でも決して珍しくはない。実際に日本では、海外の翻訳小説のユーザーだけでなく、“なろう系”を好む層にも本書は受け入れられているとのこと。翻訳を担当した原島文世さんは、「私自身も日本のライトノベルやファンタジー小説が好きなので、そういう感覚で翻訳をしました。主人公たちも若いですし、若い世代にも読んでもらえるようにということを意識しました」と話す。 実際に本書の特設サイトには、『わたしの幸せな結婚』著者・顎木あくみさん、『本好きの下剋上』著者・香月美夜さん、声優の梶裕貴さん、斉藤壮馬さんらが推薦コメントを寄せており、日本の“なろう系”及びライトノベルや声優/アニメ界隈との親和性の高さを感じさせる。原島さんは「原書版は500頁以上ありますが、読み始めると一気に読めるテンポの良さが魅力」と続ける。