10分の「手術」と8時間待つ「飲み薬」 医会が経口中絶薬の導入に消極的な事情 #性のギモン
「望まぬ妊娠は絶対に起こります」
また、前田副会長も認めたように、医会は女性の心理について軽視してきたように映る。掻爬などの手術に抵抗を感じる女性もいるし、WHOも経口中絶薬を推奨してきた。木下氏はそれをどう受け止めるのか。 「WHOは、薬のほうが安全ですと言っています。しかし日本では、それに従う必要はないと思います。WHOは発展途上国の人たちの対応を主眼にして物事を進めています」 ――先進国でもフィンランドで9割、イギリスで8割を超す女性が手術より薬を選んでいますが。 「国民性の違いもあると思います。問題は、例外的なことにいかに対応するかを考えなければなりません。患者さん方が困らないように、我々は手術を覚えることを勧めています」 ――今回、中絶薬を扱うのは有床の医療施設に限るという制限された運用で導入されました。 「患者さんが帰宅してから出血して夜中に大きい産科を訪ねていくようになったら、『無床診療所の先生は、なぜ中途半端なことをするんだ』と言ってトラブルになる可能性もあります。従って、当面大きい施設に導入するのがいいという話になりました」 ――誰からその意見が出たのでしょうか。 「治験が終わってから、医会と(日本産科婦人科)学会の担当者が議論して決めたことです。無床診療所の医師も、夜中に出血などで患者さんが来るのは困ると言っています」 取材は1時間強に及んだ。木下氏の考えは、石渡会長と同様、手術という「世界に誇る手段」があったからこそ、経口中絶薬の導入が必要なかったというものだった。それが導入の遅れに関わってきたことを示唆していた。また、手術の「安全」に傾くあまり、女性が受ける心理的な負担が深く顧みられていた様子でもなかった。 ただし、木下氏から悩ましい思いが漏れる場面もあった。母体保護法について言及した時だ。 「不本意なことでしょうが、望まぬ妊娠は絶対に起こります。母体保護法のポイントは、法の下で中絶が許可されたことです。法律の下で指定されたドクターがいかに安全に対応してあげるかが大事なのです」 では、その母体保護法自体は、今の時代にふさわしいのか。その点も考えてみたい。(第3回へ続く) 古川雅子(ふるかわ・まさこ) ジャーナリスト。栃木県出身。上智大学文学部卒業。「いのち」に向き合う人々をテーマとし、病や障がいの当事者、医療・介護の従事者、イノベーターたちの姿を追う。「AERA」の人物ルポ「現代の肖像」に執筆多数。著書に『「気づき」のがん患者学』(NHK出版新書)など。 --- 「#性のギモン」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。