10分の「手術」と8時間待つ「飲み薬」 医会が経口中絶薬の導入に消極的な事情 #性のギモン
要望書を出したのは、昨春まで医会の会長を務めていた木下勝之氏だった。2021年の議連と医会との間をつないでいたのも木下氏だった。 であれば、運用について、そして、日本で導入が遅れた理由について、木下氏に聞く必要がある。 何度かの交渉を経て、6月中旬、木下氏は取材に応じた。木下氏が経営する都内の病院を訪ねた。 フランスで1988年に承認された経口中絶薬が、日本で今まで導入されなかった理由は何か。その問いに、木下氏は薬の存在は知っていたが、日本に導入する必要はないと考えていたと答えた。
──なぜ必要ないと考えたのでしょうか。 「薬は90%で成功するというが、残りの10%の人は無効で手術が必要になります。日本の中絶手術が大事です。今も指定医師が麻酔をかけて、15分ぐらいで処置をして傷もなく安全にやっています。外国では手術が訓練されていません」 ―― 2013年の時点で、要望書を提出して経口中絶薬に厳格な管理と運用を求めていますね。 「当たり前のことを言いました。医師には『安全に手術している。導入は必要ない』と言う人たちもいましたから。しかし、もう医学の進歩だと思いました」 ──運用の条件が厳しいという声があります。 「私どもは責任を持ってやる以上、安全を期すわけです。問題点を示して、理解を促した上で選択肢を増やすことになります。ただ、どっちがいいかって言ったら、手術療法なら短時間で、寝ている間に終わるという利点もあります」 2004年、経口中絶薬を個人輸入で使う人たちが増えた際、厚労省はリスクを警告する通達を出した。そんな局面でも、医会の報告書には導入するような文言は記載されていなかった。この時に経口中絶薬を導入することを検討しなかったのだろうか。問うと、木下氏は「考えませんでした」と答えた。 「私たちが決めたところで、インターネットで購入し、使ってしまう人たちはいる。それは避けられません」