富士山噴火で「泥流」が発生したら…まさかの水深20センチで「水死」、そのとき避難猶予は「たったの1時間」
シミュレーションによる到達範囲
このシミュレーションによれば、泥流は下流へ向けて川筋を何十キロメートルも流れ下る。たとえば、北の方向では河口湖に、北東では富士吉田市に、東では御殿場市に、南では富士市に、南西では富士宮市のそれぞれ市街地に、比較的短時間に到達するおそれがある。さらに、南方へ流れ下った泥流は、東名高速道路を寸断する可能性も指摘されている。 シミュレーションによってみちびかれた火砕流の到達範囲と、それによって引き起こされる融雪型泥流の到達範囲の2つを示したハザードマップとして、「融雪型泥流の可能性マップ」が作られている。 この図では、火砕流が富士山の全周囲にわたって流れ出した場合を想定して、火砕流と泥流の到達範囲を合わせて表示している。ただし、泥流や火砕流は同時に全方向へ流れ出すわけではなく、地域ごとに条件に差があることに、注意していただきたい。 融雪型泥流の発生は、主に冬の積雪期に火砕流が山頂火口から噴出した場合が考えられている。火砕流の噴出から泥流の発生までには多少の時間差があると予想される。しかし、火砕流自体がかなり高速で流下するため、どのくらいの時間の猶予があるかはまったく不明といってもよいだろう。富士山山麓では3~5月に積雪量が最も多くなるため、この時期の噴火には警戒が必要である。
タイプ2:降灰による泥流とその到達範囲
次にもうひとつの、降灰などの噴火堆積物が流されることで発生する泥流を見ていこう。 この泥流の例として代表的なのが、さきほど述べた宝永噴火による泥流である。このときの土砂災害を見ると、火山灰が厚さ10センチメートル以上に降り積もった地域で、泥流災害が集中的に発生したいたことがわかっている。そこで、富士山が噴火したときに降灰が10センチメートルを超えるとみられる渓流(土石流危険渓流)から泥流が発生すると想定して、シミュレーションが行われた。 その結果、富士山から東の地域に偏西風にのって大量の火山灰が降れば、泥流が発生することが明瞭に示された。とくに10ミリメートル以上の雨が降った直後に起きやすいこともわかった。 したがって、降灰中に雨によって泥流が起こる可能性もある。そして、このタイプの泥流の到達範囲は、神奈川県の横浜市や藤沢市にもおよぶことがわかった。 こうした泥流についても、渓流の経路ごとに細かく色分けされた可能性マップが作成されているが、情報が多く一般市民にとっては読みづらいため、個々の地域ごとに切り分けて情報量も減らした一般配布用マップを作成している。