【7分で理解できる米大統領選】ヒラリーが負け、トランプが負け、そしてバイデンも敗れた
敗北を受け入れず
しかし、トランプは敗北を受け入れなかった。「この選挙は盗まれた」「死者まで投票している」などと主張し、大統領は訴訟を次々に起こした。 集票マシンに細工があったと論じたトランプ陣営の弁護士は、のちに製造会社から名誉棄損で訴えられ、あれは法廷闘争のための方便だったと開き直った。また、期日前に投票した高齢者の多くが亡くなっていたから、死者が投票していても不思議ではない。トランプ陣営の起こした訴訟は、裁判所にことごとく退けられていった。 2021年、大統領就任式のわずか2週間ほど前の1月6日には、連邦議会議事堂が襲撃された。2020年大統領選挙が「盗まれた」と激高して、数千人もの暴徒が議事堂に殺到し、バイデン当選の確定を阻止しようとしたのである。議員たちは逃げまどい、連邦議会の機能は一時中断した。翌日の未明にようやく、マイク・ペンス副大統領がバイデン当選の確定を宣言した。 この騒動で警察官を含む5人が死亡し、のちに1人が自殺した。事実上の内乱であり、テロ行為であった。南北戦争の契機となった1861年のサムター要塞襲撃事件、さらには、2001年9月11日の同時多発テロ(9・11)を、この事件に重ね合わせる者も少なくない。そのため、バイデンの大統領就任式には、2万5000人の州兵が警備に当たっていた。首都はまさに要塞と化していた。 しかも、この大統領就任式には、前任者が不在であった。この日の朝に、ドナルド・ジョン・トランプは自らの離任式を済ませると、早々にフロリダ州の別荘マール・ア・ラーゴに去っていた。 トランプを除く3人の大統領経験者、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ・ジュニア、そして、バラク・オバマは、いずれもマスク姿で参列した。だが、彼らの老いは覆い隠せず、21世紀の歴史の速さを物語っていた。オバマとカマラ・ハリス、つまり、黒人初の元大統領と黒人初の新副大統領はハイタッチで挨拶を交わした。 12年前に副大統領に就任した時と同じ聖書に手を置いて、バイデンが大統領就任の宣誓を行った。新大統領は厚手の黒いコートに身を包み、パウダーブルーのネクタイを締めていた。「今日はアメリカの日、民主主義の日である」「民主主義は貴重であると同時に、脆い」「私はすべてのアメリカ国民の大統領になる」「私たちは同盟関係を修復し、再び世界に関与する」と、バイデン新大統領は呼びかけた。 *** トランプ氏であろうとバイデン氏であろうと、大統領のスピーチは常に前向きで、理想を掲げたものになっている。しかしそれが任期中に現実にどれだけ落とし込めているのかは疑問が残るところだろう。誹謗中傷合戦のみならず、暗殺未遂事件が連続している状況はあたかも内戦前夜のようだ。 村田氏は同書の中で、次の様に指摘している。 「果たして、アメリカは再び喜びの朝を迎えうるのか。そして、『希望と歴史の詩』が紡ぎ出されるのか。まだ、われわれはその答えを得てはいない。まずは、なぜここまでアメリカの内政と外交が混乱したのかを、改めて問わなければならない」
デイリー新潮編集部
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