大谷翔平のいないエンゼルスのいま 低迷続くも若手の躍動にひと筋の光明
【明るいチームの未来を期待させる有力な若手たち】 本来であれば、大谷のように歴史的なレベルの逸材をほとんど見返りなしに失ったことは、そのフランチャイズにとっては致命傷である。そのことは同じチームでプレーした選手、スタッフも感じているのかもしれない。 「本当にとてつもない選手だった。マウンドに立てば全員を三振に斬って取ることを、打席に立てばいつでもホームランを打つことを期待される。彼の才能はクレイジーだった」 今季ここまで防御率3.30を残し、オールスターに選ばれた34歳の左腕アンダーソンが遠い目をしてそう述べていたのは、印象的だった。 しかし、エンゼルスはようやく"大谷以降の世界"に足を踏み出し、曲がりなりにも前に進んでいる。まだアップ&ダウンはあるが、鍵になるポジションの捕手、遊撃手、一塁手などに好素材がいる現状は微かな期待を持たせる。 7月にドラフト指名後、マイナーでの8試合で35打数19安打と打ちまくっている21歳のクリスチャン・ムーアという注目選手もおり、去年のシャヌエル同様、早期メジャー昇格の可能性も話題になっている。 注目度の低さも、悪いことではない。大谷の一挙一同に目を光らせていた日本メディアがすべて去り、常時取材に訪れるのは3、4人の記者のみ。特に若い選手にはやりづらい環境ではないはずで、シャヌエルも目を輝かせて日々、プレーする楽しさに言及していた。 「このレベルでのプレーは決して簡単ではないけれど、馴染みの顔(若手)と毎日、顔を合わせ、同時にベテランからも助言がもらえる。おかげで楽しくプレーできているし、そんななかで自信がついてきたんだと思う」 もちろんチームの向上にはフロントの尽力が不可欠であり、その点でエンゼルスに対する不安は今後も消えない。それでも新生エンゼルスの今後に静かな興味はそそられる。大谷が去り、トラウト、レンドンらの重鎮たちの存在感が薄れた今、若手中心の方向に本格的に舵を切る絶好のチャンスでもある。 「今季は厳しい1年だけど、いい若い選手はたくさんいる。(これから)僕たちはいいチームになっていくと思う」 アンダーソンはそう述べ、ステファニックと同じようにより明るい未来を思い描いていた。まだ、それを信じるのは容易ではないが、"大谷以降の世界"は始まったばかり。フロントが若い世代の可能性に気づいていれば、今後1、2年はチームにとって非常に重要な時間になるだろう。
杉浦大介●取材・文 text by Sugiura Daisuke