「老境の一歩手前」と見なされた時代は終わった、令和を生きる「40代の男性」求められる“強い覚悟”
紀子は結局、兄の同僚の矢部という男と結婚することになるのですが、その際に紀子は兄嫁の史子に「ホント言うと、四十にもなって結婚もしないで1人でブラブラしている人って、あんまり信用できないの」と言うのです。 50代の独身世帯が珍しくない現代の価値観からすると隔世の感がありますが、昭和20(1945)年代ではこれが一般的な考え方でした。「28歳の女」「40歳の男」は社会的にそういう位置づけだったのです。
■雇用環境の激変にさらされた「氷河期世代」の40代 昭和において40代の会社員というと、公私において20代から成功や失敗を積み重ね、仕事も一回りを覚えて経験値が増し、比較的安定した社会的ポジションを得られているというイメージです。 一方、現代の「40代」という世代に共通するのは、あの就職氷河期を経て今に至るということです。2000年代初め、当時の政権が非正規雇用の規制を大幅に緩和したことで日本の雇用環境は激変し、全国の就活生たちが厳しい現実に直面することになりました。
就職氷河期の定義はいろいろありますが、一般的にはバブル崩壊後の雇用環境が厳しかった10数年間、すなわち平成5(1993)年頃から平成16(2004)年くらいに学校を卒業した人たちが「氷河期世代」と呼ばれ、2024年における年齢がおおむね40歳くらいから50代半ばの人たちを指すようです。 本稿を読んでいる40代は丸ごとすっぽりハマっていることになります。 思い描いたコースにうまく乗れないままキャリアの節目である40代を迎え、今後の50代、60代へ向けて戦いながら日々を過ごしている方も少なくないことでしょう。そう考えると、40代が「安定の世代」とばかりは必ずしも言えないかもしれません。
■40代には自己を「アップデート」する機会がある そういう40代が、これからの自分の心の軸をどこに置いていくべきなのか、社会人としてのスキルをどう向上させ、ひいては1人の人間としてどのように教養を高めていくのか。 実は40代とは、他の世代と比べてより高い緊張感と強い覚悟を持って生きていかねばならないのかもしれません。 54歳の磯野波平さんが定年まであと1年、といった時代とは違い、もはや定年は65歳から70歳へ延びようとしています。となれば、令和の40歳にはまだ25年以上、四半世紀を超える勤め人としての時間が残されていることになります。
とはいえ、年数だけこなせば給与が上がる時代は終わりつつありますし、もとより非正規雇用であれば年功賃金も無縁の世界です。 今の立ち位置に見切りをつけて転職を考え、新たなキャリアデザインを描いて自己をアップデートしようと模索している人もいることでしょう。その可能性がまだ十分に残されているのが40代ということでもあります。
齋藤 孝 :明治大学教授