「老境の一歩手前」と見なされた時代は終わった、令和を生きる「40代の男性」求められる“強い覚悟”
そういえば、『サザエさん』に出てくる磯野波平さんは、パッと見の雰囲気はお爺さんのようにも見えますが、昭和26(1951)年に朝日新聞で連載が開始された時点での年齢設定は54歳でした。2024年時点では、棋士の羽生善治さんや俳優の阿部サダヲさん、タレントの岡村隆史さんらと波平さんは“タメ年”ということになります。 ちなみに、妻のフネさんはフジテレビの公式サイトで「50ン歳」となっていました。ご高齢に見えてしまう2人ですが、当時としてはこれが一般的な50代の夫婦像だったということでしょう。
■変化した「初老」という言葉に対する意識 そもそも「初老」という言葉は、奈良時代は40歳ぐらいのことを指していたと言いますし、しかも昭和に入ってもその概念はまだ残っていたようです。 たとえば、昭和16(1941)年に発表された太宰治の短編小説『風の便り』には、40代という年齢を強調した次のような一説が出てきます。 「私は先日の手紙に於いて、自分の事を四十ちかい、四十ちかいと何度も言って、もはや初老のやや落ち附いた生活人のように形容していた筈でありましたが、はっきり申し上げると三十八歳、けれども私は初老どころか、昨今やっと文学のにおいを嗅ぎはじめた少年に過ぎなかったのだという事を、いやになるほど、はっきり知らされました。」
また、昭和30(1955)年から読売新聞に連載され、翌31(1956)年に書籍化された石川達三のベストセラー小説『四十八歳の抵抗』では、損保会社に勤める48歳の主人公を初老の男性として描いています。 当時の一般的な定年は55歳でしたので、48歳の主人公は定年退職まであと7年の、いわば老境の一歩手前にいる頽齢期の男であるということです。 その後、時代とともに日本人の寿命も延び、「初老」という言葉に対する国民意識も変わりました。
NHK放送文化研究所が2010年に行った調査では、「初老という言い方は何歳くらいの人に対して使える言葉だと思いますか」との問いに対し、もっとも多かった答えが「60歳から」で42%を占めたそうです(2位が「50歳から」と「65歳から」でともに15%)。 それとともに寿命も延びました。厚労省が調べた平均寿命の年次推移をみると、昭和22(1947)年に50~54歳だった平均寿命は、令和4(2022)年には82~87歳となっています。日本人の寿命は75年で30年以上延びた計算になります。