米国の利下げがなぜくらしに影響する? トランプ政権で物価高継続のリスクも #くらしと経済
生活を苦しめる円安、なぜ昔は歓迎された?
かつて円安は日本経済にとって良いことでした。輸出立国だった日本の製品が国際市場で割安となり、売れ行きが良くなるからです。輸出が増えて国内の生産も増加。製造業の収益は改善し、働く人の給料が増えて家計は潤います。製造業を中心とした好況が日本全体に広がる、という波及がみられました。しかし、製造業は1990年代後半からグローバル化への対応で生産拠点を海外にシフトさせます。これに伴って日本からの製品輸出は減少傾向となりました。10年ほど前から、それまで黒字基調だった貿易収支は赤字に転落するようになりました。 日本からの製品輸出が減った以上、円安によって輸出・生産が増える、という構図にはなりにくい状況です。工場の海外移転により製造業で働く人も減りました。経済産業省などがまとめた「ものづくり白書」によると、93年に製造業で働く人は1530万人いましたが、22年は1044万人に減っています。円安になったとしても、輸出・生産が増え、家計が潤う、というメカニズムは起きにくいのです。むしろ、家計の大半は円安による輸入品の高騰で生活が苦しくなりました。
日本は資源国ではありません。石油や食料の大半は輸入に頼っています。急速な円安はガソリンや食料品などの高騰につながりました。消費者物価指数の前年同期比上昇率は2%台ですが、みなさんがスーパーやコンビニなどでの買い物で感じる物価上昇率はもっと大幅に高いでしょう。それだけ生活が圧迫されたのです。実際、日銀の「生活意識に関するアンケート調査」(四半期ごとに実施。10月公表分)では、円安が進行した22年から「暮らし向きD.I.」の悪化が顕著です。円高になれば、物価高は軽減し、「暮らし向きD.I.」は改善すると見込まれます。 さらに、円高に振れると「日銀の利上げペースが一段と緩慢になる」(シンクタンクのアナリスト)というメリットもあります。物価高が緩和されるので、日銀は急いで利上げする必要はなくなります。このことは住宅ローンを抱えた家庭には朗報です。政策金利は比較的低位で安定し、住宅ローン金利の上昇も限定的となりそうです。借り入れの多い中小企業も返済負担がどんどん重くなることはないでしょう。