米国の利下げがなぜくらしに影響する? トランプ政権で物価高継続のリスクも #くらしと経済
円安が加速した理由
こうした米金利の低下は、為替市場での円安修正につながり、日本の多くの企業や家計に好影響をもたらします。ここからは、そのメカニズムについて、やや詳しく解説していきます。為替市場では様々なことが相場を動かす材料になります。その中でも、大きな材料の一つとなるのが、各国の金融政策の動向です。為替市場では、22年から円安が加速しましたが、その主な理由になったのが、米国と日本の金融政策の動向でした。両者の政策運営で大きな違いが生じたことが対ドルでの円安を招きました。 前述のように22年に米国ではFRBがインフレ抑制で大幅に金利を引き上げましたが、一方で日銀は、マイナス金利や国債買い入れなどで構成する「大規模緩和」を維持しました。これにより、日米間で大きな金利差が生じました。日本で低金利が続く一方、米国の金利が大きく切り上がったのです。為替市場では、金利の低い通貨を売り、金利の高い通貨を買って、「利ザヤを稼ぐ」という取引手法があります。「キャリートレード」と言います。22年は日米金利差の急拡大で、円を売ってドルを買う「キャリートレード」が活発化しました。これを受け、同年初めに1ドル=115円前後だった円の対ドル相場は年後半に150円近くに下落しました。
日銀では、23年春に総裁が黒田東彦氏(元財務官)から学者出身の植田和男氏に交代しました。植田総裁率いる新体制(植田体制)は「大規模緩和」を徐々に修正。24年春にマイナス金利を解除しました。ただ、上げ幅はわずかで、夏前に162円近くまで円安が進んでしまいます(参考図、24年のドル円動向)。この円安に対し、為替政策を所管する政府(財務省)・日銀は円買い・ドル売り介入を実施。また、日銀は7月末に追加利上げに踏み切り、円安阻止に動きます。さらに、米利下げが濃厚となり、9月に140円近くまで円高方向に揺り戻しました。
その後、再び円安に振れましたが、FRBの利下げが続けば、改めて「金利差からのドル買い・円売りにはブレーキがかかる」(大手邦銀)とみられます。日銀も「ゆっくりとしたペースで利上げを続ける」(銀行系証券アナリスト)と予想され、拡大した日米間の金利差は着実に縮小します。円売り・ドル買いの「キャリートレード」は巻き戻され、円買い・ドル売りに傾く可能性が高いと見込まれます。これに伴い、為替の流れは円安から円高へと転換すると予想されます。そして、円高への揺り戻しは、多くの企業や家計に恩恵をもたらすのは間違いないでしょう。