『極悪女王』で話題の全日本女子プロレスはすべてが「規格外」だった 元東スポの柴田惣一が明かす人気とその裏側
――そうなると殴り合い、蹴り合いのみの試合も多くなりそうですね。 柴田:全女はリング上で、殺伐とした激しい闘いを見せていました。普段から仲が悪くてケンカをしたりすると、あえて試合を組むこともあった。会社がお互いの悪口を吹き込んだり......。でも、それがいい試合になるんですよ。 試合中にケガをしても「試合しながら治せ」という指示があったり、今考えれば"破天荒"をとおり越して滅茶苦茶だったと思います。気合いや根性論が優先。それがいい・悪い、ということではなく、「そういう時代だった」ということでしょう。 ――今は、全女に所属していた選手たちが、トークイベントやYouTubeなどで当時のことをよく話していますね。 柴田:ただ、総じて「つらく苦しかったけど、いい経験になった」と懐かしんでいる部分もあるように感じます。もちろん本当に大変だったでしょうが、それをただの悲しい思い出としないで「あの時代があったから今の自分がある」と前向きに捉えているのはすごい。やはり、心も体も相当に鍛えられたんでしょう。 いずれにしろ全女は、すべてにおいて規格外だった。そして、日本の女子プロレスの源流です。全女の選手たちの弟子も数多く活躍していて、女子プロレス団体もたくさんできたし、世界に羽ばたく選手もいます。賛否両論はあるでしょうが、全女がなければ今の女子プロレスはなかった。全女を設立した松永兄弟の功績は大きいと思いますよ。 (連載6:『極悪女王』ダンプ松本はリング外もヒールを徹底 リングネームの秘話も語った>>) 【プロフィール】柴田惣一(しばた・そういち) 1958年、愛知県岡崎市出身。学習院大学法学部卒業後、1982年に東京スポーツ新聞社に入社。以降プロレス取材に携わり、第二運動部長、東スポWEB編集長などを歴任。2015年に退社後は、ウェブサイト『プロレスTIME』『プロレスTODAY』の編集長に就任。現在はプロレス解説者として『夕刊フジ』などで連載中。テレビ朝日『ワールドプロレスリング』で四半世紀を超えて解説を務める。ネクタイ評論家としても知られる。カツラ疑惑があり、自ら「大人のファンタジー」として話題を振りまいている。
大楽聡詞●取材・文 text by Dairaku Satoshi