アメリカ大統領選、衆院選、兵庫県知事選…なぜSNSが選挙で猛威を振るっているのか 「ネット上のデマに気をつけましょう」と呼びかけても何も変わらない現実
啓蒙しても何も変わらない
アカデミズムの世界では近年、民主主義の弱体化や無力化が重要な論点になっている。アメリカは民主主義の総本家のように思われてきたが、国民の分断が危惧されているのはご存知の通りだ。 「私は常に民主主義を批判してきました。民主主義の問題点を取り上げた最近の論調には強い関心を持ち、記事や論文や著作など、できる限り目を通してきたつもりです。いずれも真摯な論考ばかりで、深く考えさせられます。SNSが政治の世界で猛威を振るっていることと、民主主義が制度疲労を起こしていることは、密接な関係があるはずです。しかし、ならば具体的にどうやってSNSの短所を取り除くかという点になると、その解決策を提示するのは非常に困難だと言わざるを得ません」(同・呉氏) 呉氏は理想の政治形態は民主主義ではなく賢者の政治であり、徳を持つ人物がリーダーに選ばれるべきだと主張し続けてきた。 「SNSの猛威に抗い、現代社会で徳を持つ人物が選ばれる政治システムを構築するにはどうしたらいいかと問われても、残念ながら答えは浮かびません。ただ一つ指摘できるのは、『SNSの使い方には気をつけましょう』や『投票の際、インターネット上の情報にはデマも多いので、よく調べるようにしましょう』と啓蒙的に呼びかけても何も変わらないということです。状況は極めて深刻だと思っています。今後もSNSと政治を巡って大きな問題が起きる可能性は高いでしょう。私はかなり悲観的な見通しを持っています」
有権者は賢明にはなれない
呉氏は著書『バカに唾をかけろ』(小学館新書)で、文部省教科書の『民主主義』が70年ぶりに角川ソフィア文庫で復刊されたことに触れた。教科書の一節「要するに、有権者のひとりひとりが賢明にならなければ、民主主義はうまくゆかない」を引用し、次のように指摘する。 《その通りだ。そして、有権者ひとりひとりが賢明になる社会など永遠に来ないのである。今世紀に入って衆愚社会論が公然と語られるようになった。そういう時代に我々は生きている》 註1:ポピュリズム――その源泉を辿る(集英社『イミダス』公式サイト 連載コラム「シネマでみる、この世界」第12回:2021年7月13日) 註2:「ポピュリズム」すなわち愚民主主義について――呉智英(評論家)(デイリー新潮:2016年8月2日) デイリー新潮編集部
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