アメリカ大統領選、衆院選、兵庫県知事選…なぜSNSが選挙で猛威を振るっているのか 「ネット上のデマに気をつけましょう」と呼びかけても何も変わらない現実
ポピュリズムと衆愚政治
同じ11月に行われた兵庫県知事選では、出馬した斎藤氏もSNSで情報を発信した。だが、それ以上に立花氏や、元大蔵・財務官僚で嘉悦大大学院教授の高橋洋一氏などによる応援メッセージがネット上で広く拡散し、斎藤氏の再選に大きく寄与した。トランプ氏とマスク氏の関係に似ていると言える。 兵庫県知事選ではSNSの持つ“負の側面”も明るみになってきた。兵庫県の百条委員会で委員長を務める奥谷謙一県議は「立花氏にSNSで虚偽の内容を投稿され、名誉を傷つけられた」として兵庫県警に名誉毀損容疑で刑事告訴を行った。 さらにPR会社「merchu」(メルチュ)を経営する折田楓氏が配信サイト・noteに「知事選で斎藤氏から広報全般を担当するよう依頼された」と投稿。公職選挙法や政治資金規正法に抵触しないのか、法曹家の間でも議論が起きた。さらに12月2日、弁護士と大学教授が斎藤知事と折田氏を神戸地検と兵庫県警に公選法違反容疑(買収・被買収)で刑事告発を行った。 担当記者は「有権者の投票行動にSNSが強い影響を与えることが分かり、改めて『ポピュリズム』と『衆愚政治』という二つの政治用語に注目が集まっています」と言う。 「ポピュリズムを小学館のデジタル大辞泉は《19世紀末に米国に起こった農民を中心とする社会改革運動》と解説しています。また政治学者で同志社大学教授の吉田徹氏はポピュリズムの原点を探るコラムを執筆しており、非常に興味深い内容になっています(註1)。ちなみに吉田氏によると、オックスフォード政治学事典にもポピュリズムの項目があり、『普通の人々の選好を支持すること』との定義が記されているそうです。本来、ポピュリズムには善悪の価値判断は含まれておらず、新聞のデータベースを調べると80年代の全国紙は『大衆主義』の訳語をあてていたことが分かります」
トランプ氏と国民民主党の共通点
少なくとも80年代の新聞はポピュリズムを「政治家や政党が国民の訴えを重視する」という文脈で使っていた。それが90年代の紙面になると、ロシアで改革派が民意を極度に重視したり、ヨーロッパの各国で排外主義の世論に支持されて極右政党が台頭したりする政治状況もポピュリズムと表現するようになった。その際、新聞各紙は訳語を「大衆主義」から「大衆迎合主義」に改めている。 そして、まさに今、ポピュリズムの観点から議論が行われているのがトランプ氏の当選だ。日本の場合は国民民主党の躍進だろう。アメリカでの「極端なインフレで生活が苦しい」、日本では「税金と社会保障費の負担が重く、手取りが少ない」という有権者の不満を汲み取り、共に大型減税を公約に掲げた。 トランプ氏も国民民主党も“大衆の味方”という立ち位置を明確にし、生活苦に苦しむ有権者の支持を得た。その際、トランプ氏の場合は“意識の高いセレブ”などが、国民民主党の場合は財政均衡主義を掲げる財務省などが“大衆の敵”となったことも興味深い。 両者の評価は、識者の間でも割れている。減税政策が妥当だと考える論者は「SNSを活用し、有権者の切実な声に耳を傾けた善のポピュリズム、大衆主義」と評価する。逆に財源のない無責任な政策と減税を批判する論者は「SNSを悪用して有権者に甘言を弄し、財政破綻を招きかねない危険な政策で支持を得た、悪のポピュリズム、大衆迎合主義」と非難しているというわけだ。