認知症本人の同意がなくとも入院治療をする方法【医療保護入院】とは?家族が困った場合の対処法を精神医療の調査、審査に詳しい弁護士が解説
認知症患者には「病識がない」ケースが多い
精神疾患、精神障害によく見られる特徴のひとつとして、「病識のなさ」が挙げられます。 病識とは、簡単にいうと、自分自身が病気であるという自覚のことです。認知症の中でもっとも割合が多いアルツハイマー型認知症の患者は、病識がない、または希薄であるといわれます。 多くの人は、自分が病気であると自覚していたら、病院に行って治療してもらいます。ちなみに私は、最近痛風になってしまったため、近所の病院に行きました。医者に処方してもらった薬を服用したことで、現在痛みはありません。逆に、痛風という症状がなければ、私は自分が病気であるという自覚を持てず、通院することはなかったはずです。 このように、病識の有無というのは、患者本人の治療に対する意思、意欲に深く関わりがあります。 精神疾患、精神障害になった人に病識がないと、家族などの周りの人がその言動から、「ちょっとおかしいかも」「何かの病気ではないか?」と思って通院を勧めても、本人は拒否することがよくあります。 本人には病気であるという自覚はありませんので、病院に行こうという気にならないのは、むしろ当然ともいえます。 私は4年間、埼玉県の精神医療審査会の法律委員をしていました。精神医療審査会とは、精神科病院への非自発的入院に関する審査を行う機関です。適切な入院治療が行われているか、患者への権利侵害がないかなどを調査・審査しています。 精神疾患・精神障害のある人とお話をする機会が多くありました。私の経験に限られますが、お話を伺った人のほとんどのかたに、病識が見られませんでした。
病識のない人に治療を受けてもらう方法
認知症、統合失調症などの病識がないことが多い精神疾患、精神障害の場合、適切な治療が十分に行われず、日常生活に支障が出ることが少なくありません。認知症にはもの忘れ、理解力・判断能力の低下などの中核症状の他に、妄想、幻覚、徘徊、暴言・暴力などの周辺症状があります。こうした周辺症状が出始めると、日常生活に支障が生じ、入院治療が必要になることもあります。 しかし、医師が認知症の周辺症状の治療のために入院が必要と判断しても、認知症の本人に病識がなく、治療を拒否した場合にはどうしたらいいのでしょうか。 このような場合には、患者本人の同意がなくても、入院治療を受けてもらう非自発的な入院の制度があります。その代表例が「医療保護入院」です。
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