2022年のF1界はどう変わる?
2022年のF1は、さまざまな点で新しい一年を迎える。まず車体をデザインするためのルールとなるテクニカルレギュレーションが大きく変更される。元々、2021年から導入される予定だったが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響により、レギュレーション変更が1年先送りされ、2022年から導入されることになった。 この新しいレギュレーションが、これまでと大きく異なることから、これまでとは違うレースが展開されるのではないかと期待が寄せられている。新レギュレーションでは国際自動車連盟(FIA)が白熱した接近戦を生み出すために、2021年までのステップドボトム方式に代わって、グラウンドエフェクトによってダウンフォースを得る空力コンセプトが導入されている。 ステップドボトムはマシン底面に段差の付いた形状になっており、これはアイルトン・セナの死亡事故を受けて1995年から導入されたものだった。それ以前は段差のないフラットボトム方式が採用されていた。フラットボトムは1983年から導入され、それ以前のF1で多くのチームが採用していたアイデアがグラウンドエフェクトによってダウンフォースを得るグラウンドエフェクト・カーだった。つまり、2022年のF1は40年ぶりに導入されるグラウンドエフェクト・カーでレースが行われるという点が大きな注目となっている。 2つ目の注目すべき変更点は、タイヤだ。F1ではこれまで13インチ・ホイールが採用されてきたが、2022年からは18インチのホイールが導入される。18インチのホイールとは車輪を側面から見た際にタイヤの内側にある金属製のホイールの直径が18インチということだ。
タイヤの外径(直径)は670mmと変わらないため、偏平率が低くなってタイヤのサイドウォールが薄くなる。タイヤの肉厚が薄くなるため、タイヤ内部の空気量が減り、コーナーリング時のタイヤの変形量が変わる(小さくなる)ため、マシン全体の空力に与える影響が極めて大きくなると考えられる。グラウンドエフェクト導入とともに、このホイールのサイズ変更が各チームに与える影響は小さくないだけに、各チームがどのような対応をしてくるのかが楽しみだ。 またF1は、2021年から予算制限が導入されている。その額は一部のコストを除いて1億4500万ドル(約168億円)とされている。レッドブル・ホンダやメルセデスといったビッグチームのそれまでの年間予算は約3億ドル(約345億円)と言われていたので、約半分に減ったことになる。2021年にF1で優勝したチームは4チームだが、そのうち20回を2チーム(レッドブル・ホンダ、メルセデス)だけで独占している。果たして、2022年の勢力図がどれくらい変わるのか注目したい。 燃料も変わる。2021年に使用していたガソリンにはバイオ燃料であるエタノールが7.5パーセント添加されていたが、2022年からはエタノールの混合率が7.5パーセントから10パーセントへ引き上げられ、いわゆる「E10 (イー・テン)」と呼ばれるガソリンの使用が義務付けられる。これはF1が2030年にカーボンニュートラルの実現を目標としているからだ。このバイオ燃料の導入によって、パワーユニットマニュファクチャラーは新たな戦いを繰り広げようとしている。というのも、エタノールのようなアルコール燃料は密度が低いため、同じパワーを得るためにはより多くの量が必要となるが、現在のF1は燃料搭載量と燃料流量が定められており、何も対策を講じなければ単純にパワーが落ちてしまうからだ。 ホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターも「各メーカーがいろんな努力をしていると思いますが、現在のパワーを取り戻すのはそんなに簡単なことではないと思います」と、E10への対応次第で2022年のパワーバランスが変わることを示唆している。 2021年限りでF1への参戦が終了したホンダだが、2022年3月1日にFIAへホモロゲーション(認証)するまでE10に対応したエンジンの開発を継続することを明言している。2022年以降、そのパワーユニットを有するのは、ホンダのパワーユニットに関連する知的財産(IP)を使用する権利を持つレッドブル・パワートレインズとなる。 ただし、ホンダからレッドブル・パワートレインズへのパワーユニット開発の移行期となる2022年は、ホンダがパワーユニットの組み立てを行うとともに、トラックサイドでのエンジニアリングサポートを提供し、レースオペレーションを支援するという形で、レッドブル・パワートレインズをサポートすることになっている。 ホンダという名前はF1から姿を消すが、2021年にドライバーズチャンピオンに輝いたホンダのDNAと戦士たちは、2022年もF1で戦い続ける。日本人ドライバーとしてただひとりF1に参戦するアルファタウリの角田裕毅とともに、ホンダの戦いにも引き続き、注目したい。 (文責・尾張正博/モータージャーナリスト)