思い出のVHSも見られない? “テープメディア終焉”の危機がせまる「2025年問題」を考える
プロはどう対策しているのか
放送用のプロ向けテープフォーマットには、ベータカム/M-II/ベータカムSP/ベータカムSX/デジタルベータカム/D1/D2/D3/D5/DVCAM/DVCPro/MPEG IMX/HDCAM/HDCAM-SRなどがある。こうしたテープメディアは、再生するにはそれぞれのフォーマットに対応する再生機が必要であり、すでに再生できなくなっているもの、やがて再生できなくなるものがある。 放送局では過去の放送番組をライブラリ化して保存しているが、90年代にテープメディアがデジタル化した際に、アナログテープは全てデジタルテープへダビングしてまとめられた。さらに00年代初頭のテープメディアがHD化した頃にも、こうしたダビング作業が行われている。 10年代以降はライブラリの活用のために、テープメディアからオンプレミスのビデオサーバへ転写された。局によっては、利用頻度の高い番組はアーカイブ用ビデオサーバに、利用頻度の低い素材レベルのデータは、圧縮してLTOに保管していると聴く。LTOもテープメディアだが、まだまだドライブや新フォーマットの開発が続いており、データセンターなどでは現役である。 一方で番組納品、あるいは番組送出などで使われてきたソニーのXDCAMことプロフェッショナルディスクは、24年7月にBlu-rayなどと共に生産終了が発表された。これはまだ局内で現役で使っているところもあるが、今後はシステムのIPなどにより、消滅していくことになる。 ライブラリ用にプロフェッショナルディスクを複数枚カートリッジに入れた、オプチカル・ディスク・アーカイブも同様に生産終了が決まった。一部の放送局ではこれを導入しているところもあるが、おそらく発表前に顧客には通知されていると思うので、すでに移行作業が始まっているだろう。 資料映像や録音を保管している国立国会図書館では、13年に「国立国会図書館資料デジタル化に係る基本方針」及び「資料デジタル化基本計画」を策定し、資料のデジタル化に着手している。メインはマイクロフィルムなどのテキスト資料だが、この段階からすでにアナログの映像および音声資料に関してもデジタル化していく方針が打ち出されていた。 この計画は21年に見直され、「資料デジタル化基本計画2021-2025」へとアップデートされている。基本計画以外でも、劣化状況等から保存対策の緊急性が非常に高く、かつ、代替物の入手が困難な資料については優先的にデジタル化していくことが確認されている。 一方で各自治体で運用されている、図書館や博物館のようなところはどうか。著作権法的には、17年の文化庁 文化審議会著作権分科会報告書に、「アーカイブ機関において所蔵資料を保存のため複製することについて」(121ページ)として、法第31条第1項 第2号について、 『同号の規定に基づき,記録技術・媒体の旧式化により作品の閲覧が事実上不可能となる場合に,新しい媒体への移替えのために複製を行うことも可能であると解せられる』 という、条文解釈の拡大がみられる。また同号における「図書館等」の範囲についても、 『法令の規定によって設置されていない美術館や博物館であっても,その所蔵資料の保存のために複製を行うことが必要な場合もあることから,「図書館等」に含まれ ていない美術館や博物館等についても,法第31条第1項第2号の適用が可能となるよう, 「図書館等」に加えることが適当であるとされた』 とある。つまり公的機関でも著作権的には、再生不可能になる前にアナログテープの内容を複製することは、可能になったと考えられる。あとは実行予算であったり、人員や設備の問題である。すでに着手しているところもあるだろうし、そうでないところもあるだろう。 VHSの話として突然沸き起こったように見えるこちらのほうの2025年問題だが、テープメディアの保全・複製に関しては、2025年のうちになんらかの形でアクションを起こす必要がある。
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