考察『光る君へ』41話 敦明親王(阿佐辰美)に猛アプローチする妍子(倉沢杏菜)「邪魔なさらないで」の迫力!新しい時代の到来が迫っている
一条帝に読んで欲しかった「御法」「幻」
ここで問題です。帝が敷く新体制への対応に疲れた左大臣はどうするのでしょうか? ハイ正解、まひろの局に息抜きに行きます。まひろが書いている和歌は、 うき世には雪消えなむと思ひつつ思ひの外になほぞほどふる (憂き世から雪のように消えてしまいたいと思っているのに、意外にもまだ生きているのです) これは『源氏物語』41帖「幻」の一節だ。 道長「まだ書いておるのか」 まひろ「ずいぶんな仰せではありませんの? 書けと仰せになったのは道長様ですよ」 まったく酷い言い分である。もともと、一条帝を彰子のもとに渡らせるための物語執筆作戦だったとはいえ、書かせたのは道長ではないか。作品としての『源氏物語』にはもう興味がないということか。 道長「光る君と紫の上はどうなるのだ」 まひろ「紫の上は死にました」 道長の「えっ? ヒロイン死ぬの?」という反応。ネットのネタバレ情報を見て驚く我々と同じである。道長は読んでいないようだが、紫の上は40帖「御法(みのり)」で死んだ。 光源氏51歳。大病のあと、衰弱した紫の上は出家を望むが、彼女と別れたくない光源氏は引きとめる。その春に紫の上は法華経法要を二条邸で執り行った。光源氏の愛した女人たちである明石の御方や花散里も参列し、紫の上はそれぞれと歌を交わす。 夏、紫の上は可愛がっている孫の匂宮(におうのみや)に、毎春庭の桜の花を自分の代わりに愛でてほしいと、遺言ともとれる言葉をかけた。弱ってゆきながら紫の上は周りの皆に別れを告げる。 そして秋、養女である明石の中宮の見舞いを受け、そのまま紫の上は息を引き取る。 萩の上の露が風に散るかのような、はかない最期だった。 今まひろが書いている41帖「幻」は、 光源氏52歳。紫の上を喪って嘆き悲しむ日々を送っていた。それだけでなく、他の女たちのもとに通ったことで、最愛の女性を苦しませたという後悔にも襲われる。ある寒い夜、女房たちとの思い出語りで、女三宮降嫁の頃は紫の上は特に思い悩んでいた様子であったが、仕える女房たちにはそれを悟らせまいと振舞っていたことを聞く。光源氏自身、女三宮のもとに泊まり、紫の上の寝所に戻ってきた夜明けに、おっとりと優しく迎える紫の上の袖口が涙で濡れていたことを思い出すのだった。あのときと同じ冷え込む暁に、女房の「外はたいそう雪が積もっております」という声を聞き「うき世には雪消えなむと……」と歌を詠む。 『源氏物語』の熱心な読者だった一条帝が「御法」「幻」を読めなかったのは残念である。愛した人に先立たれる悲しみを経験した人間にとっては、このあたりは特に胸に迫る巻だ。 道理を飛び越えて敦成親王を東宮に立てたのは、より強い力を持とうとしたのはなぜかと問うまひろに、 道長「お前との約束を果たすためだ」「そのことはお前にだけは伝わっておると思っておる」 その言葉に嘘はないのだろう。しかし実際は敦成親王が生まれたあの日から、道長は権力に憑りつかれた。しかし自らの権勢欲のために動いている、世を動かしているとは思っていない。すべてまひろとの約束を果たすためだと信じ込んでいる。だから嘘ではないのだ。 じっと道長を見つめるまひろに「私と交わした約束のためなのですね」と喜んでいる様子はない。10話で右大臣の息子であることをやめる、ともに都を出ようと自分を抱きしめる道長に、こんな理不尽ばかりが起こる世を変えてほしい、それができるのはあなたしかいないと必死で説いた。あの夜の契が、今このように作用しているということを目の当たりにして絶句するのだった。
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