考察『光る君へ』41話 敦明親王(阿佐辰美)に猛アプローチする妍子(倉沢杏菜)「邪魔なさらないで」の迫力!新しい時代の到来が迫っている
清少納言の怒り
藤壺で、中宮様を少しでもお慰めしようというのであろう、秋の歌会が開かれている。女房たちが裳を着けていない(勤務スタイルではない)ことで、あくまでも私的なリラックスした集まりという形を取っている。 赤染衛門(凰稀かなめ) たれにかは告げにやるべき紅葉葉を思ふばかりに見る人もがな (いったい誰に告げましょう。ここに美しく染まった紅葉があるのだと……心ゆくまでともに眺める人がいればよいのにと思うのです) 藤式部(まひろ) なにばかり心づくしにながむれど見しに暮れぬる秋の月影 (これといって心を傾けていたわけではないのに、眺めている内に秋の月が涙で曇ってしまいました) 和泉式部(泉里香) 憂きことも恋しきことも秋の夜の月には見える心地こそすれ (悲しみも恋心も、秋の夜の月には浮かんでくる気がするのです) 藤壺の身内だけでも、この三人が揃うとなんとも華やかなことだ。 そこへ、清少納言(ファーストサマーウイカ)が敦康親王(片岡千之助)からの贈り物を中宮に献上するためにやってきた。鈍色の喪の装束を身に着けた彼女は、藤壺の女房たちが色とりどりの着衣であることに一瞬驚き、動きが止まる。この場面での彼女の怒りの着火点はまずここだったのだと思う。 かの『枕草子』の作者に会えて喜ぶ彰子に、現在仕えている脩子内親王(ながこないしんのう/海津雪乃)ではなく亡き皇后・定子(高畑充希)の女房だと名乗り、 「敦康親王様のことは、もう過ぎたことにおなりなのでございますね」 「このようにお楽しそうにお過ごしのこととは思いもよらぬことでございました」 攻撃的なもの言いではあるが、この寛弘8年(1011年)7月の藤原実資(秋山竜次)の日記『小右記』には、天皇崩御と一周忌の服喪期間についてその間は侍臣は節会・行幸・神事を除き、鈍色を着用する決まりが朱雀院崩御時を例にとり記されている。そうした服忌令だけでなく6月の一条帝の崩御から間もない秋に「お楽しそうにお過ごし」であるのを見て、清少納言は批難しているのだ。彼女は彰子が帝を思い、涙に暮れていたことを知らない。『源氏物語』によって『枕草子』を、皇后・定子様の面影を一条帝の心から消し去っておきながら、亡き帝と皇后、ひいてはおふたりの皇子である敦康親王を蔑ろにしていると怒っている。 タイミングが悪かった……ここは頼通の言うように「今日は内々の会だから」と清少納言に日を改めさせるべきだった。凍りついた空気の中で、赤染衛門が口を開く。 赤染衛門「私たちは歌の披露をしておりましたの。あなたも優れた歌詠み。一首お読みいただけませんか」 清少納言「ここは私が歌を詠みたくなるような場ではございませぬ!」 6話に登場した清少納言の父・清原元輔(大森博史)は歌人として名高かった。『枕草子』で清少納言は、 中宮様(定子)に「平凡な歌を詠んでしまったら亡き父が気の毒でございます」と申し上げた。中宮様はお笑いになって「ならば好きにするがよい。私は詠めとは申さぬ」と仰ったので、とても気持ちが楽になった。 と書いている。『中宮様』の前で歌を求めるのは、清少納言──ききょうの大切な思い出に踏み込む、怒りの火に油を注ぐ言葉だった。去り際に、まひろに投げかける憤怒と軽蔑の視線がつらい。 局で、いらだちのままに勢いよく墨をするまひろ……「清少納言は得意げな顔をした、ひどい方になってしまった」 『紫式部日記』のいわゆる「三才女批評」は、和泉式部と赤染衛門のひととなりと歌の詠みぶりについて語ったのち、苛烈な清少納言批判となる。清少納言こそ、したり顔にいみじう侍りける人──。 しかしまひろは日記に書いた後は気持ちが落ち着いたのか、静かに夜空を見上げる。月が雲に隠れる……友達だと思っていた人が、本当にあの人なのかと思うようなことを言って帰っていってしまった。 紫式部 めぐり逢ひて見しやそれともわかぬまに雲がくれにし夜半の月かな (せっかく会えたというのに、確かにあなただとわかる間もなく帰ってしまったのですね。まるで雲に隠れる月のように) この歌の別解釈のような演出だった。紫式部と清少納言が才能を認め合った友人だという筋立てのこの作品で、仲違いが決定的になってしまうのはとても辛い。 ちなみに史実では清少納言の娘・小馬命婦が中宮・彰子に女房として仕えており、ドラマのように敵意を燃やしていたかはわからない。藤壺の秋の歌会場面は完全にフィクションである。 清少納言は定子に心からの忠誠を捧げていた、その点は史実もドラマも同じだ。
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