日本中で「地価の急上昇」が大発生…日本人が「いまの土地に住めなくなる」事態が急増する「深刻な大問題」
中流階級も追い出される……
ニューヨーク市の病巣が如く捉えられてきたハーレムにおいて、20世紀末以降、ジェントリフィケーションが進行していった一方、世界有数の金融街であるウォール街の周辺でもこの現象は着々と進んでいった。 ウォール街が位置するマンハッタン区南部からブルックリン橋を渡り、ブルックリン区に入ると間もなく、ブルックリン・ハイツと呼ばれる地区が姿を現す。19世紀に開発されたこの地区の住宅は、今でもブラウン・ストーン(茶褐色の石)で外装されており、歴史的な景観を呈している。 20世紀初頭には約3分の1の住宅が銀行に差し押さえられたほか、多くが労働者の下宿屋として利用された。しかし、1960年代以降、この地区にも中流階級の人々が流入し、瞬く間に住宅価格が上昇していった6)。こうした衰退地区への中流階級をはじめとする流入者は、ジェントリファイアー(gentrifier)と呼ばれる。 彼・彼女らは、都心部へのアクセスの良さ、安価な住宅価格などに魅力を感じるとともに、地区の歴史・文化・景観などに新たな価値を見出し、旧来の労働者地区に流入する。 1980年代までをみる限り、ブルックリン・ハイツは、他の地区と大差のない20世紀末以降の欧米都市に典型的な地域変容を経験したといえる。しかし、この地区が辿った変化の特異性は、その後の1990年代以降に集約される。ヒト・モノ・カネ・情報のグローバル化のさらなる進展とともに、グローバル・エリートたちが国境を越えてニューヨーク市に居住を始めたためである。 その中でも、多くの人々がウォール街近くのブルックリン・ハイツに流入したのである。彼・彼女らは、金融関連業などの専門職に就き、富裕層(super rich)として位置づけられる人々である。職場への近接性に加え、19世紀に建設された石造りの住宅外観も文化的懐古趣味を持つ、彼・彼女らにとって魅力的に映った。 グローバル・エリートがブルックリン・ハイツに到来することで、それまでにジェントリフィケーションを引き起こしていた、メイン・アクターであった中流階級の人々が一転して域外へと締め出されることになった。 労働者が追い出されて中流階級へ、その後、それがさらに追い出されて富裕層へと置き換わる、二重のジェントリフィケーションが生じるこの現象は、ジェントリフィケーションが上塗りまたは更新されることから、スーパー・ジェントリフィケーションと呼ばれる。 ニューヨーク市では、低所得層のみならず、中所得層の人々さえもが空間的な締め出しを経験しているのである。グローバル都市であるニューヨーク市、その中でも金融の核心地であるウォール街に近接する当該地区の立地が主な要因となって生じた特有の地理的現象といえる。