日本中で「地価の急上昇」が大発生…日本人が「いまの土地に住めなくなる」事態が急増する「深刻な大問題」
「ジェントリフィケーション」という問題
地価高騰は、我々の暮らしにどのような影響を及ぼすのだろうか。新居の購入を検討していた人にとって、それは耳の痛いニュースであろう。パンデミック以降における資材価格・工賃の上昇も相まって、「理想の地に我が家を買い、住まう」という人生の一大プロジェクトの達成に暗雲が立ち込めたように感じている人もいるかもしれない。 一方で、地価の上昇は家賃の値上げを誘発させることから、賃貸契約で入居する人にもしわ寄せは及ぶ。地価上昇に伴い、固定資産の評価額が上がることで固定資産税や都市計画税が増額される。 これらの税金は直接的には不動産所有者(家主)に課されるが、家主は往々にして、借家人から支払われる賃料を上げることでその差分を補おうとする。賃料に関して、データのある2009年と2024年(ともに第1四半期)を比べると、東京23区で19.61%、大阪市では30.10%上昇した2)。また、札幌市で23.76%、仙台市で22.71%、福岡市でも20.53%上昇した。東京のみならず、地方都市でも賃料が顕著に上がっていることがわかる。 読者の中にも、最近、マンションやアパートの契約更新のタイミングで寝耳に水な悲痛な体験をした人がいるのではないだろうか。家賃の値上げ額によっては、住み続けたいと思える物件であっても契約更新を諦め、職場・学校や最寄り駅へのアクセスの低下、或いはオートロック、エレベーター、独立した浴室・洗面所の有無といった点で、住宅設備の低下を渋々受け入れざるを得なくなる。 また、スーパー、コンビニ、公園などへの近接性といった良好な周辺環境を手放し、条件のより劣る他所への引っ越しを甘んじて決断する人も出てくるであろう。所得が十分に上がらないなか、衣・食・住という我々の基本的人権の一つである「住まい」に関する、近年の一連の状況に危機感を抱いている人も少なくないと思われる。 賃貸契約の場合、家主に対し、借家人は圧倒的に弱い立場に置かれる(法律の上では、そうではないのだが)。日本よりも先に地価の高騰が進んだ欧米の例をみると、家主が税金の増額分以上の過大な賃料を設定するケースが珍しくない。日本でも、周辺で家賃相場が上昇したことを理由に、家賃の値上げを申し立てる家主が少なくない。 日本では借地借家法において、借主の保護が定められているが、周辺地域における家賃相場の上昇は賃料の値上げの正当な事由として認められる可能性が高い。実際に申し立てを行えば、法的に精査されケースバイケースの裁定が下ると考えられるが、その過程では時間的にも精神的にも、かなり消耗してしまうだろう。 そのため、泣き寝入りをせざるを得なくなったり、揉め事を避けようとして退去を受け入れる人も出てくる。 また、先行する欧米の例やバブル期の日本の地上げ屋の例からは、元の借主に嫌がらせをして退去させた後、より高い賃料で新たな借主を入居させるなどの実例が認められる。家主/借家人の非対称な力関係は、特に地価の上昇局面において住宅問題を引き起こす構造的で根深い要因となる。 こうした地価高騰とそれに伴う不本意な転居や居住地選択の余地縮小の問題は、国内では比較的最近取り沙汰されるようになったが、実は欧米を中心とする他の先進諸国では、1970年代頃から現在に至るまで継続的に確認されてきた。 一連の現象は、ジェントリフィケーション(gentrification)と呼ばれ、人文地理学の下位分野である都市地理学を中心としながら、都市社会学や都市計画学などを含む、都市研究という学際的な学術領域において、長らく中心的な議題となってきた。 この現象は、「住まい(home)」という私たちの暮らしの基盤や起点となる場所に変更を迫るとともに、ひとたび発生すると数年程度の短期間で急速に進行する点も特徴である。研究者以外の人々にも直接的に関係する事象であるため、行政職員から一般市民までをも広く巻き込み、社会的な関心の的になってきた。