2018年「オリジン・オブ・恐竜」(下):恐竜大進化は“絶滅”から始まった
なぞが多い恐竜起源について、先月科学雑誌に新しい研究結果が発表されました。イタリア北部の地層群で見つかった足跡化石は、恐竜の一大進化イベントが「約2億3400万年前から2億3200万年前」頃に突然起こった可能性を指摘しています。なぜ恐竜最初の一大進化が、このタイミングで起こったと考えられるのでしょうか。 古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が報告します。
三畳紀後期に起きた初期恐竜の多様化
恐竜の先祖は今から約2億4700万年前(三畳紀前期の終わり頃から中期のはじめ)の化石記録においてみられる (「最も古い」とされるものは「足跡化石」による)。こうした事実は前回の記事 (「オリジン・オブ・恐竜」(中))において紹介した。しかし、化石自体(特に骨格化石)の数は、三畳紀後期前半である「カーニアン期」(2億3700万年―2億2700万年前)そしてそのつづきである「ノーリアン期」(2億2700万年-2億805万年前)に入るまで、極端に少ないのが現状だ。 この事実は最古の恐竜が出現した時、他の脊椎動物群(=様々な爬虫類や大型両生類、初期哺乳類の遠い先祖にあたる単弓類などのグループ等)の陰に隠れて、細々と生活していたことを示しているようだ。最初期の恐竜種はどれも体がそれほど大きくなく、種の数自体も非常に少なかったからだ。 後のジュラ紀や白亜紀にみられる「陸地の覇者」としてのイメージは、どうひいき目にみても最初の出現時に持ち合わせていなかった。 しかし三畳紀後期のカーニアン期に入ると、恐竜の種 ── 特に「恐竜上目Dinosauria」に属すもの ── の化石の数は飛躍的に多くなる。肉食で完全な二足歩行を備える「獣脚類Theropoda」、超大型の草食恐竜「竜脚形類Sauropodomorpha」そして「鳥盤類Ornithischia」といった、より馴染み深い主要グループの直接の先祖達が同時期に現れた。まるで最高のタイミングをあらかじめ知っていて、ある日一斉に開花し、野原の隅々まで広がる菜の花の群れのように。 筆者注:恐竜上目、そしてより初期の恐竜型類と恐竜形類の進化関係は「オリジン・オブ恐竜(上)」 の記事において紹介した。 4月初めに発表されたBernardi等(2018 )の研究は、三畳紀後期はじめに起きた「恐竜の最初の多様化」の要因について、興味深い考察を行っている。 ―Massimo Bernardi, Piero Gianolla, Fabio Massimo Petti, Paolo Mietto, Michael J. Benton. 2018.Dinosaur diversification linked with the Carnian Pluvial Episode. Nature Communications 9 (1) 恐竜が最初の多様化を遂げる直前、三畳紀の世界地図を独り占めにしてきた「超大陸パンゲア」はどうも、かなり急激で大きな「気候の変化」に直面したようだ。そしてこのグローバル規模で起きた気候の大変化が、後の恐竜大躍進と直接深く関わっていた可能性が高い。今回はこの興味深いストーリーに迫ってみる。