2018年「オリジン・オブ・恐竜」(下):恐竜大進化は“絶滅”から始まった
カーニアン期はじめ:環境の大激変(CPE)と絶滅
今回の研究チームは、この「最初の恐竜の多様化」について二つの大きな要因を提案している。 まず時代IIIのはじまりにあたるカーニアン期はじめは、かなりグローバルな規模での環境の激変が起きたことが知られている。具体的には「The Carnian Pluvia Episode(略してCPE)」とよばれる2億3400万年から2億3200万年前の約200万年の期間に起きたと考えられている。CPEは直訳すると「カーニアン期の大雨季エピソード」の意味に近い。 それまで長く続いていた乾期の気候が、まとまった雨季とじめじめと湿気を含む温暖な気候へと急に変わっていった。こうした一連の気候の変化は一部の地質学者によって以前から唱えられていた(Simms等1989 、Ruffell等2016 )。 ―Simms, M. J. & Ruffell, A. H. 1989. Synchroneity of climatic change and extinctions in the late Triassic. Geology 17: 265ー268. ―Ruffell, A., Simms, M. J. & Wignall, P. B. 2016. The Carnian Humid Episode of the Late Triassic: a review. Geological Magazine 153: 271ー284. そして更に重要なことに、この約200万年の間におきたCPEと呼ばれる環境の大変化に伴い、様々な生物グループを巻き込んだ「比較的大規模な絶滅」も起こったと考えられている(注:大絶滅ではない)。 まずいくつかの海生動物の仲間が大きなダメージを受けた。特に複数のグループのコノドント(注:こちらのサイト参照)やアンモナイト、多数のホタテ貝の種などが含まれている。(何か海環境において大きな変化も起きたのだろうか。) そしてたくさんの陸地の生物種も被害にあった(Benton 1983 )。特に当時の大型脊椎動物の主要グループであったリンコサウルス類Rhinchosauria (初期の主竜様類 Archosauromorphaの一グループ ── 四角張った顔と頑丈な構造の体を持つ四足動物。三畳紀前期から中期にかけてかなり多様性を遂げたが、三畳紀末までに全ての種が滅んだ ── Ezcurra等2016参照)。そしてディキノドン類Dicynodontia (ディキノドン下目は単弓綱 Synapsidaという哺乳類の祖先を含む一大系統に属す。ペルム紀後期から三畳紀後半までかなりの多様化を遂げていた)の多数の種が、CPEの期間に姿を消した。 ―Benton, M. J. 1983. Dinosaur success in the Triassic: a noncompetitive ecological model. Quarterly Review of Biology 58: 29ー55. ―Ezcurra Mart●n D., Montefeltro Felipe, Butler Richard J. (2016) The early evolution of rhynchosaurs. Frontiers in Ecology and Evolution 3:142 ※●はiの上が・ではなく'(アクサン記号) リンコサウルス類とディキノドン類に属すほとんどの種が「草食」だったという事実は見逃せない。なぜならCPEにおける気候の変動中、植物相がグローバル規模でがらりと変わったからだ (Taylor等2009)。乾燥した気候から、雨季とともに湿気をたっぷり含んだ気候への変化が、植物達に大きな変化を及ぼした可能性は容易に想像がつくだろう。それまでに食べ慣れた食べ物(植物)が突然なくなっては、草食動物にとって死活問題となったことだろう。 ―Taylor, T. N., Taylor, E. L. & Krings, M. (2009) Paleobotany. The biology and evolution of fossil plants 2nd edition (Academic Press, New York). そしてCPEの最中に海岸線や水辺だけでなく、かなり内陸の ── それまでカラカラに乾いた一見生物不毛に見えた ── スペースにも、植物が広範囲に進出したはずだ。恐竜たちはこうした新たに出現したスペースをうまいこと利用したのではないだろうか? 現在みられる多くの球果植物類(=マツやスギ、ヒノキの仲間を含む針葉樹の一大グループ)の直接の祖先が、このCPE絶滅の直後に現れたことが化石記録において知られている。そして古生代後半に大繁栄を遂げた「シダ種子類(Pteridospermatophyta) 」の多数のグループも姿を消した。シダ種子類は現在みられるタネを持たないいわゆる「シダ類(Polypodiopsida)」とは別のグループだ。全てのシダ種子類は白亜紀末までに滅んだ。 筆者注:日本の研究者の中田亮一氏も、日本の三畳紀の岩石におけるデータ(丹波―美濃―足尾帯からのもの)に基づきCPEの気候変化について研究をおこなっている(Nakada等2014参照)。三畳紀を通して日本は海の底だったが、海成堆積岩に当時の環境変化の記録が残されている。 ―Nakada, R., Ogawa, K., Suzuki, N., Takahashi, S. & Takahashi, Y. 2014. Late Triassic compositional changes of aeolian dusts in the pelagic Panthalassa: response to the continental climatic change. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 393: 61ー75.