2018年「オリジン・オブ・恐竜」(下):恐竜大進化は“絶滅”から始まった
イタリアの初期恐竜出現パターン
今回の研究チームのリーダーであるBernardi博士はイタリア北部のトレントという都市にある博物館に所属している。イタリア北東部にはちょうど恐竜が初めて出現し、初期進化を遂げた三畳紀中期から後期にかけての地層群がある。こうした地層からたくさんの陸生脊椎動物の足跡化石が見つかるそうだ。一連の足跡化石の中には「恐竜のもの」とはっきり判定・識別できるものも含まれている。 どうしてたくさんの足跡化石が、ここイタリア北部から見つかるのだろうか? おそらく三畳紀の当時、非常にたくさんの陸生動物がこの辺りに生息していたのは間違いないだろう。加えて足跡化石が含まれる地層群は砂岩や苦灰石(dolomite)によって主に形成されている。足跡が残りやすい砂浜や泥地のような環境が長い間あったはずだ。これだけの好条件が揃うことは、(恐竜起源の研究において)天文学的な確率で少ないはずだ。 今回発表された一連のイタリアの足跡化石データは、いくつか興味深い事実を示している。 1.恐竜型類(Dinosauromorpha)に属すと考えられる最古の足跡化石は、ずばり「2億4500万年前」の地層から見つかっている。これは前回の記事で紹介した「時代I」(アニシアン期)の中頃にあたる。ちなみに今回の研究チームは、独自に岩石の年代測定を行っているので、より正確な年代推定値が算出されていることになる。 2.2億4500万年より古い時代の地層から、恐竜の足跡は今のところ見つかっていない。そのためこの推定値が「最古の恐竜記録」といっていいかもしれない。 3.しかし三畳紀中期の地層から見つかる、恐竜のものとはっきり判定できる足跡化石は極端に少ない。一番多いのは一見ワニのような姿をした陸生の初期Cruroitarsi類の仲間だ(注:ワニの直接の祖先ではない)。この傾向は時代IIIにあたるカーニアン期の一時期まで続くそうだ。 4.そして時代III(カーニアン期)の後半に入ると、足跡化石の様相ががらりとかわる。陸生脊椎動物群において、恐竜 ── それも恐竜形類か恐竜上目に属すと考えられる ── の足跡が大半を占めるようになる。この恐竜の進化史における最初の一大進化イベントは、「約2億3400万年前から2億3200万年前」頃に起きたと推定されている。 カーニアン期(時代III)後半において、恐竜が後の中生代全般にわたる長大な進化史の礎となる「最初の多様化」を遂げたという可能性は、非常に興味深く重要といえる。 約2億3200万年前に恐竜が最初の大きなマクロ進化を遂げたとすると、最古の恐竜が現れてからざっと「1300万年後」の時代になる。その間、恐竜たちは他の大型陸生脊椎動物の影におびえながら、細々と生き延びてきたことになる。 それではどうしてカーニアン期後半に恐竜達は最初の多様化を遂げたのだろうか? そこには何か特別な理由が隠されているはずだ。 筆者注:三畳紀の初期恐竜の足跡化石に興味がある方は、前回の記事の中でも取り上げたBrusatte等(2011 )の論文を是非チェックしてみて頂きたい。いくつものタイプの足跡が多数の写真とともに掲載されている。 ―Brusatte, S. L., Niedzwiedzki, G. & Butler, R. J. 2011. Footprints pull origin and diversification of dinosaur stem lineage deep into Early Triassic. Proceedings of Royal Society Series B 278:1107-1113.