米バイデン新大統領 就任演説で「語ったこと」「語らなかったこと」 渡辺靖・慶應大教授に聞く
時代に合った“実直派”
――バイデン新大統領の就任演説をどう評価しますか。 例えばケネディさんの時の「国家のために何ができるのか考えなさい」というセリフがありましたよね。フランクリン・ルーズベルトの「国民がいま一番恐れなければいけないのは、恐れることそのものだ」もそうですが、あのようなキーワードになるようなものはなかったように思います。演説が美しかったとか、高尚な感じがしたとかそんなこともありませんでした。 しかし、いまのこの時期に、あの人からこの言葉が発せられるとかなり重みがありました。総じて良かったと思います。 ――バイデン氏は、トランプ氏の「アメリカファースト」、オバマ氏の「チェンジ」のような分かりやすいメッセージを使ってきませんでした。 オバマさんは、立候補したときには連邦議会の上院議員でしたが、まだなったばかりでワシントン政治はほとんど知らなかったと思います。トランプさんはなおさらで、立候補するまで公職経験が全くありませんでした。さらに言えば、その前のブッシュさん、クリントンさんも前職は知事であり、いわゆるワシントンでの政治経験はありませんでした。 そういう人たちは、このワシントン政治を変えるんだというようなキャッチフレーズに訴えることが有効でした。バイデンさんの場合はワシントン政治を熟知して、このワシントン政治の駆け引きの中でもまれてきた熟練政治家なので、あえてキャッチフレーズに訴える必要がなかったのかもしれません。 外からばっと救世主が現れて、ワシントンを変えるという華々しさはありませんが、いまはそういう退屈かも知れないけれど、実直なタイプの方が向いているのかもしれないと思っています。 ■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など。近著に「白人ナショナリズム」(中央公論新社)がある。