カマラ・ハリス氏ってどんな人? 米国の新副大統領
米国でジョー・バイデン氏が大統領に就任した。そのバイデン氏を最側近として支えることになるのが副大統のカマラ・ハリス氏だ。「女性初」「黒人系初」「アジア系初」と初めて尽くしだが、これらの側面は、どのような意味を持つのだろうか。また、ハリス氏の政治家としての評価は? アメリカ研究が専門の慶應義塾大学SFC教授、渡辺靖氏に聞いた。
【ハリス氏の略歴】 ・1964年生まれ ・米カリフォルニア州出身 ・同州の司法長官を務める ・2016年~上院議員(同州選出) 【プライベート】 ・父はジャマイカ、母はインドから米国に移民 ・夫ダグ氏と6年前に結婚。ダグ氏の2人の子の継母でもある。
“変わりゆく米国”の象徴
――女性初、アジア系発、黒人系初と「初」尽くしです。 いま、米国の中で「#Me Too(ミートゥー)」運動、あるいは「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター。BLM)」運動などがある中で、女性で、黒人系で、ということは非常に重要になってきました。 また、副大統領というのは大統領に何かあったときには最高司令官にならなければいけない立場です。他にも何人か有力な副大統領候補はいましたが、下院議員や州知事出身者だと少し厳しいかなという感じがします。そういう意味では、期間としては短いですが、上院という、いわゆるエスタブリッシュメント(既存の支配層)の世界にいた経験があるというのは大きな意味を持ちます。 しかも、州の司法長官も務めています。政治の難しさを地べたに近いところで見聞きし、鍛えられていると思います。総合的に考えると、副大統領にふさわしく、変わりゆくアメリカを象徴している人だと思います。
安定感あり 課題は外交経験
――ペンス前副大統領との討論会でも、話しの力強さが印象的でした。 そうですね。舌鋒鋭いですし、表情の作り方など上手いと思います。もう十分、副大統領としての資質、安定感はあるという印象を持ちます。 ハリス氏は、バイデン氏が大統領に勝利したことが確実となったとして開かれた勝利演説に白のパンツスーツをはいて来ていました。「白」というのは女性の参政権運動のシンボルカラーです。今年は米国で女性が参政権を認められて100年なので、その節目の年に女性初の副大統領が生まれたことになります。前回の大統領選でヒラリー・クリントン氏は女性大統領になれませんでしたが、それを期待していた人にとっても希望を与えたことになるのではないでしょうか。 ――副大統領を務めるうえで不安要素はありますか。 唯一欠点があるとすれば、外交経験がないところではないでしょうか。これはもう仕方がない。州の司法長官を経験した後に上院議員になりましたが、所属していたのは司法委員会で、特に外交畑の人ではありませんでした。 その部分を副大統領として経験を積んでいけば、「ポストバイデン」の、そして女性初の大統領の筆頭候補になるのではないでしょうか。その意味でも「ハリス副大統領」は、これまで以上に責務の重い副大統領になると思います。 ■渡辺靖(わたなべ・やすし) 1967年生まれ。1997年ハーバード大学より博士号(社会人類学)取得、2005年より現職。主著に『アフター・アメリカ』(慶應義塾大学出版会、サントリー学芸賞受賞)、『アメリカのジレンマ』(NHK出版)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など。近著に『白人ナショナリズム』(中央公論新社)がある。