米バイデン新大統領 就任演説で「語ったこと」「語らなかったこと」 渡辺靖・慶應大教授に聞く
歴代大統領との違いは?
――これまでの大統領の演説と比べて特徴的な点はありましたか。 バイデンさんというこの78歳の人が、自分の人生を賭すような形で出馬して、そして一生懸命訴えている姿、彼にしか出せないこの言葉の深さ、重さと言うのがあるなと思いました。健康不安もありながら、この歳になってこういうことを訴えている意味を考えるとやはり単なる言葉以上の意味を持っている、意味深な演説に聞こえた気がします。 副大統領として支えたオバマさんとの比較で言えば、オバマさんは使う言葉とか表現が高尚な感じがしたのですが、バイデンさんのスピーチは非常にプレーンイングリッシュ(簡単な英語)というか、誰にも分かるというか、聞きやすい英語だったと思います。 トランプ支持者や、難しい言葉を使うエリートに対して反発を持っている層を意識して、意図的に表現したのかもしれません。
演説で“語られなかったこと”
――逆に、バイデン氏が演説で触れなかったことで気になった点はありますか。 一番に思いつくのは、やはりトランプさんについて何の言及もなかったことです。「トランプ」という言葉が出ませんでした。トランプさんが退任演説したときも、バイデンさんについては言及していません。ホワイトハウスに手紙は残したと報道がありますけど、少なくとも公の場でお互いがお互いに言及しないまま権力だけは移譲されていくというのはちょっと異常な感じがします。 しかし、直接的に名前を出すことはありませんでしたが、聞いていると、トランプ時代からの脱却というのが伏線としてあったのかな、とは思います。「アメリカ国民全体の大統領になる」と述べたのは、支持者にしか向いていなかったと言われているトランプさんへの批判でしょうし、民主主義、憲法、真実を重んじる、というのはやはり弾劾裁判に2度掛けられている大統領、トランプさんのことを意識してのことでしょう。 国際協調を重視する、というのも「アメリカファースト」を掲げたトランプ大統領に対する批判です。一見当たり前のことを言っているようで新鮮味がないと言えばないのですが、しかし、もう一回アメリカをトランプ以前の状態に戻したいというか、そういう決意みたいなものは感じました。