コロナ禍は震災の伝承活動にどのような影響を与えたのか? 東北大・佐藤翔輔准教授(災害伝承学)に聞く #知り続ける
被災地内の学校が携わるようになったのはとても大きい
――コロナは必ずしも伝承活動にとってマイナスではない、というのは意外でした。 客観的に見ると、伝承活動の可能性という意味ではむしろプラスの部分が多いとすら感じています。もちろん、活動されている方は本当につらいと思いをされている。実際、相当ストレスをためているようです。だからあくまでも全体的に見てという話ですが、コロナ禍でも、伸びるところは伝承活動の新しい持続可能性を獲得しています。被災地では、慰霊祭などをやっている今の世代が、次の世代にどうやってバトンタッチしていくかというのがこれからの大きな課題となりますので、活動を持続することはとても大切です。また、私はバトンタッチの勝負所は今から10年後ぐらいに来ると思っています。だからこそ、コロナ禍によって被災地内の学校が伝承活動に携わるようになったのはとても大きいことでした。 ――伝承活動が果たす役割の一つに「防災」があると思いますが、それ以外にはどんな役割が考えられますか? 私が気仙沼市にある2つの中学校を対象に取り組んでいる研究があります。彼らは今中学生なので、震災の時は2歳や3歳。当時のことは覚えていない。そこで彼らに、地域にいる人たちの体験を聞き取って発信するという探究的な学習を3年ぐらい継続してやってもらっているのですが、その効果測定をしました。 測定項目は「人をまとめる力」「問題に対応する力」「人を思いやる力」「信念を貫く力」「きちんと生活する力」「気持ちを整える力」「人生の意味の自覚」「生活を充実させる力」。いわば「人間が生きていく上で必要な力」みたいなものです。こうした力が、このような学習をやる前と後でどうなったかというのを調べていくと、多くの項目で上がっていました。 グループワークをやる中で問題解決能力を養ったり、被災体験を聞くプロセスを通してなんで自分は生きているんだろう、ということを考え直したりする。つまり、伝承活動には、防災という即効的な部分もあるのですが、人間の深層的な部分も成長させることが分かってきた。 ――防災という観点で考えた時も、即効的な知識はもちろん必要ですが、その知識をうまく活用するために必要な力が身につくのかもしれませんね。 災害もコロナもそうですが、事前に勉強したことって起きないですよね。そうするとやはり臨機応変さとか、応用力が求められる。「人生を生きる力」みたいなものを養うことが、いろんなことに効果を持つのだと思います。 ――それこそが伝承活動の大きな役割と言えそうです。そしてコロナ禍でも、みなさんが本当に一生懸命工夫して伝えようとしていることを知ることができました。 コロナが1年だけで終わらなかったというのも大きかったと思います。もし1年で元の状態に戻っていたら、緊急的な対応だけで乗り越えたと思うのです。2年も続いたから、語り部の皆さんもいろいろな工夫をした。この長さは、後から振り返ると、これからの伝承活動にとって結構重要なことだったと思っています。 ■佐藤翔輔(さとう・しょうすけ)東北大学災害科学国際研究所准教授 専門は災害情報、災害伝承。過去の災害伝承の実態や、実災害において伝承が果たす効果について研究する。東日本大震災の被災地では、さまざまな伝承活動団体を支援している。