イランの地下世界で「隠れキリシタン」が増える意外な真相…!いま若者たちが「イスラムをやめるワケ」
ライシ大統領のヘリ墜落死をイラン国民はどう見る?
――例によってイラン政府と日本のマスコミは、「大統領の死を嘆くイラン国民」の映像ばかり流していますが、現実にはほとんどのイラン人が今歓喜に沸いています。 墜落の一報が流れるや、SNS上には「因果応報」「自業自得」といった言葉のほか、「(ヘリが衝突した)山のほうは大丈夫だったか?」とか「(大統領ではなく)パイロットの安否が心配で眠れない」などという皮肉たっぷりのジョークで溢れていました。 その夜、町には花火や爆竹の音が鳴りひびき、人々は胸を高鳴らせながら祝杯を上げました。「大統領よ、死ぬなら前もって言ってくれ。つまみが全然足りないぜ(笑)」なんて言いながら。 翌朝、死亡の速報が駆け巡ると町という町の菓子店は大繁盛だったそうです。イランではいい出来事があるとケーキやクッキーなどを大量に買って家族や友人、さらには見ず知らずの通行人にまで配って喜びを分かち合う慣習があるからです。 しかし今回、こうした人々の姿は公共の場では見られませんでした。前もって政府が、喪に服さない市民の言動には法的措置を取ると脅迫していたからです。だから、本来は彼らこそマジョリティーなのに可視化されない。イランではお決まりのパターンですけどね。 もともとライシ大統領はハメネイの腹心で、国民的人気はほとんどなかった。なにしろ史上最低の投票率となった「しらけムード」の選挙で選ばれた大統領ですから。 なぜそこまで不人気だったかというと、ライシはかつて反体制派として投獄された市民を次々に処刑したことで悪名高い政治家だった。2022年の大規模デモを武力で強硬弾圧したことも記憶に新しい。 イラン人は彼を「6年生のエビーちゃん」と呼んで揶揄していました。エビーは彼の名前エブラヒムからきていますが、6年生というのは何か。実はたたき上げの彼は小学校しか出ていないと言われ、このあだ名は彼の学歴の低さを皮肉ったものなんです。 「ハメネイへの忠誠心と残忍さだけでのし上がってきた、無知無学な男」――。そんな人物の死を嘆き悲しもうなんて人は、ゴリゴリの体制派か、さもなくばよっぽど奇特かのどちらかでしょう。日本のマスコミはこういうことをもっとちゃんと報じるべきです。 とりあえずハメネイが健在でいる限り、大統領不在となってもイラン政治に大きな混乱はないでしょう。ただ、後継者候補といわれたライシの死で、ポスト・ハメネイ時代のイスラム共和国に暗雲が立ち込め始めたことは否定できません。
若宮 總(ルポ・ライター)/小林 空(週刊現代 記者)