イランの地下世界で「隠れキリシタン」が増える意外な真相…!いま若者たちが「イスラムをやめるワケ」
都合よく作られる「歴史的怨念」
――非常にねじれた状況になっているのですね。 ただし、イランの人々が抱えている「アラブに征服された」という歴史的怨念は作られた伝統であると言えるのです。少なくとも、私はそう考えています。 というのは、イスラム化以降の時代でも多くの人たちは「アラブ人だ」「ペルシャ人だ」という強烈な民族意識は持っていなかったからです。 わかりやすい例が詩人たちです。 現在、ペルシア詩人として知られる人物の多くはアラビア語とイスラム諸学に精通していた。アラブ圏に留学していたような人もたくさんいます。人の往来は盛んだった。 ここに亀裂が入るきっかけとなったのが、19世紀以降、本格的にヨーロッパからイランに流入してきた「民族主義」です。その結果「イラン人とは」「イランとは」という問題意識が生まれた。 こうして、アラブとペルシャの対立が強調されるようになってしまったのです。 ――その結果なのか、今ではイスラムとは異なるアイデンティティを持ちたい人がイランでは増えているそうですね。本書には棄教して「キリスト教」や「ゾロアスター教徒」を自称するようになった人々も登場します。彼らはどのような気持ちなのでしょうか。 イランで棄教や改宗した元ムスリムは、「モルタッド」と呼ばれます。もし当局に棄教がバレて、モルタッドのレッテルを貼られてしまえば、裁判にかけられ死刑も覚悟しなければなりません。しかし、現にキリスト教に改宗して「隠れキリシタン」として生きる人たちが私の知り合いにはいるのです。 ゾロアスター教のシンボルである「アフラマズダ」のネックレスやブレスレットを身に着けて「ゾロアスター教徒になった」と自称する若者も結構います。 驚くべきことに、SNSを見ているとイスラムよりもゾロアスター教に言及される投稿の方が多いと感じるほどです。 ただし、彼らはゾロアスター教の洗礼のような儀式は受けているわけではないでしょう。きちんとゾロアスター教の経典を読んだことすらないはずです。若者たちは、イラン・イスラム共和国政府への反発のあまり、イスラムよりも古いイランの宗教であるゾロアスター教にアイデンティティを求めたいと考えているのです。