アマゾン奥地の先住民族の生活は、“ある日突然インターネットを使えるようになった”ことで一変した
イーロン・マスク率いるスペースXの通信衛星サービス「スターリンク」は、アマゾンの孤立した部族にインターネットをもたらし、彼らを外の世界と結びつけた。その一方で、インターネットが引き起こす問題をめぐり、部族内部では意見が対立している。 【動画】アマゾンの奥地でインターネットに熱中する「先住民族のいま」 2023年9月、突如としてインターネットを使えるようになったマルボ族が直面する変化と課題を、米紙「ニューヨーク・タイムズ紙」が取材した。 演説が長引くにつれ、人々の視線はスマホ画面へと逸れていった。インスタをスクロールする10代の若者たち。ガールフレンドにメールを送信する男性。そして、グループ初の女性リーダーが演説中だというのに、スマホに群がりサッカー中継を観戦する男性たち。 どこにでもあるような、ありふれた光景だ。だが、これが起きているのは、地球上で最も隔絶された地域の一つにある、先住民族の集落なのだ。 マルボ族は長年、アマゾンの熱帯雨林の奥地を流れるイトゥイ川沿いに、何百キロにもわたって点在する共同小屋で暮らしてきた。彼らは独自の言語を話し、森の精霊とつながるために幻覚剤のアヤワスカを飲み、クモザルを捕まえてスープの材料にしたりペットにしたりする。 ブラジルに数百ある先住民族の一つで、約2000人いるとされるマルボ族は、隔絶された環境で、何百年もこのような生活様式を守り続けてきた。 ところが、2023年9月、米宇宙企業のスペースXが提供する通信衛星サービス「スターリンク」によって、彼らは突然、高速インターネットを使えるようになったのだ。
「インターネットのせいで、若者が怠け者に」
スターリンクは2022年にブラジルに参入して以来、世界最大の熱帯雨林全域に普及し、地球上で最後のオフライン地帯の一つにインターネットをもたらした。 隔絶された小さな文明がいきなり世界に開かれたら、何が起こるのか──「ニューヨーク・タイムズ」紙はそれを知るために、アマゾン奥地にあるマルボ族の集落を訪れた。 「インターネットが開通したときは、みんな大喜びでした」。ツァイナマ・マルボ(73)は、マロカと呼ばれる、部族の人々が寝食を共にする高さ15メートルの小屋の土床に座ってそう話す。 遠く離れた家族や友人とビデオ通話で話すことができたり、緊急時に助けを呼べたりと、インターネットは確実に利益をもたらしてくれた。「でも、いまは状況が悪化しています」 彼女は体に塗る黒い染料の原料となる、ジェニパポの実を練り潰していた。身に付けているのはカタツムリの殻を繋ぎ合わせたネックレスだ。最近、若者たちはこうした染料やアクセサリー作りに興味を示さなくなったという。 「インターネットのせいで、若者は怠け者になってしまいました。白人のやり方を学んでいるのです」 だが、彼女は少し間を置いてからこう付け加えた。「でも、どうか私たちのインターネットを取り上げないでください」