《今や最大の音楽資産管理会社》「もはやエレキの会社ではない」ソニーがKADOKAWAを必要とする理由
11月、ソニーが出版大手のKADOKAWAと買収に向けた協議に入ったと報じられ、大きな注目を集めた。12月19日には資本業務提携契約の締結を発表、ソニーがKADOKAWAの約10%の株式を保有する筆頭株主となることが明らかになった。なぜいまソニーはKADOKAWAを必要とするのか? 背景には創業者である盛田昭夫氏の教えがあった。「世界のソニー」の思惑をジャーナリスト・大西康之氏がレポートする。【全3回の第1回。全文を読む】
躍進の原動力は「ソフト」
12月11日、ソニーグループの株価が上場来高値を更新した。ITバブル期(2000年3月1日)以来、2025年ぶりのことだ。株式時価総額は20兆6500億円となり、2位の三菱UFJに肉薄する。 営業利益の約6割をゲーム、音楽、映画で稼ぐソニーはもはや「エレキの会社」ではない。「エンタメの雄」であるKADOKAWA買収交渉にも注目が集まる。ソニーはこの10年でどう変身したのか、これから10年でどこへ行くのか。 「PS誕生30周年の記念すべきタイミングでの内製タイトル初出四冠 凄すぎる快挙です」 12月15日、フェイスブックにこう書き込んだのは、家庭用ゲーム「プレイステーション(PS)」の生みの親で、ソニー元副社長の久多良木健氏。 年に一度のゲームの祭典、毎年ロサンゼルスで開催される「The Game Awards 2024」で、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の「アストロボット」が大賞にあたるゲーム・オブ・ザ・イヤーを獲得した。 小さな可愛いロボットが宇宙を旅する「アストロボット」は2024年9月に発売されると、9週間で150万本を売る大ヒットとなり、The Game Awards 2024では大賞以外に「ベストファミリー」「ベストアクション/アドベンチャー」など、最多となる4つの賞をかっさらった。 株式市場が20兆円超の価値をつけた「ソニー躍進」の原動力はハードからソフトへのシフトにある。2025年3月期の連結営業利益は1兆3100億円と2000年3月期の約6倍を見込むが、その内訳はゲーム、音楽、映画などのエンタメ関連が6割を占める。 エンタメの比率は2010年時点でも25%に過ぎなかったわけだから、この2015年でソニーがいかに変貌したかがわかるだろう。ゲーム事業の営業利益は10年前の7倍、音楽は5倍、映画が2倍になった。 「2018年にEMI Music Publishingを買収したでしょ。あれが大きかった」 そう語るのは、ソニー・ピクチャーズ社長を務めた野副正行氏だ。 ソニーで働いた33年間のうち20年を米国で過ごし、1996年にソニー・ピクチャーズエンタテインメント(旧コロンビア・ピクチャーズ=ソニーが1989年に買収)の副社長に就任。業界最下位に低迷していた同社をトップクラスのスタジオに引き上げた。だが、野副氏が「エンタメのソニー」躍進の起点と指摘するのは映画ではなく、音楽業界における英EMI「出版部門」の買収だった。