《今や最大の音楽資産管理会社》「もはやエレキの会社ではない」ソニーがKADOKAWAを必要とする理由
「発射台」はあるが「弾」が必要
負債込みの買収金額は47億ドル(約7000億円)に及んだ。EMIはビートルズがアルバムを制作したアビーロード・スタジオを持つ名門だが、2018年当時はアップルの音楽配信ソフト「iTunes」の登場で音楽CDが売れなくなり、経営不振に喘いでいた。 そんな会社に大枚を叩く真意を誰もが測りかねた。野副氏が種明かしをする。 「あれは会社じゃなくて版権を買ったんですよ。EMIの出版部門はクイーン、ボブ・ディラン、マイケル・ジャクソンなど大物アーティストの版権200万曲を握っていた。あれがほしかったんです」 ソニー・ミュージックエンタテインメントはその後も版権を買い漁り、2024年3月末で624万曲に増えた。米ユニバーサルミュージックグループ(2023年末、450万曲)を上回り、業界最大の「音楽資産管理会社」になった。そこには2024年4月、ホワイトハウスの公式晩餐会に招かれた人気ユニットの「YOASOBI」、米国で音楽を超えた影響力を持つビヨンセから、タレントの「やす子」、M-1グランプリを制した漫才の「錦鯉」まで、世界中のタレントが含まれる。 版権を持つことがなぜ重要なのか。ソニー関係者が説明する。 「音楽の楽しみ方が『CDを買う』から『ネットでダウンロードする』に変わり、今は『会費制ストリーミングで聴く』に変化しました。ソニーは音楽ストリーミング・サービスのアップルミュージックやスポティファイに楽曲を提供しており、我々が版権を持つ曲が聴かれるたび、カラオケで歌われるたびに、お金が入る仕組みになっています。 CDの時代は新譜を売ることが中心でしたが、ストリーミングは利用者の好みで昔の曲もかなり聴かれるようになった。優良な版権は半永久的に利益を産み続けることになります」 版権とは、すなわち知的財産(IP)である。ソニーはハードを作って売る会社から、IPを保有し、それを運用して稼ぐ会社に変貌したのだ。