自衛隊「統合作戦司令部」の機能を同盟網の中で確認する――指揮権並列型体制下での同盟国・同志国等との連携強化
地域全体のなかでの位置づけ:日米韓の提携に向けて
もう一つの論点は、日米間の指揮権調整の在り方を、地域全体のなかに位置づけることである。2023年1月の日米2プラス2共同発表においてアメリカ政府は、日本の統合作戦司令部設置を「二国間調整を更に強化する」という文脈で歓迎するとした。それと同時に、「パートナー国との効果的な調整を向上させる必要性」を共有するとも述べている。ここで言う「パートナー国」に、たとえば韓国が入ると考えることは不自然ではないだろう。同じ年の8月に、岸田総理、バイデン大統領、そして韓国の尹錫悦大統領がアメリカ大統領の保養地キャンプ・デービッドでの会談で日本・アメリカ・韓国三国間の安全保障上の連携強化で一致したことは周知の通りである。 実際に日本の統合作戦司令部と米韓連合軍司令部との関係構築は今後の論点であろう。たとえば朝鮮有事の一環として日本が北朝鮮からミサイル攻撃を受けた場合、日米共同の反撃作戦と、米韓連合軍による対北朝鮮作戦は、現状では別々の指揮系統でおこなわれることになる8。そうした対応を前提とするならば、米韓同盟側と日米同盟側のすり合わせが重要になるだろう。 このことは、2022年安保三文書が「反撃能力」9保有の方針を打ち出したことで重要性が増したといえる。三文書策定時に韓国外務省は、日本が朝鮮半島の安全保障や韓国の国益に重大な影響を及ぼすかたちで反撃能力を行使する場合、韓国との事前協議と同意が必要だとの立場を示した。ただ、たとえば日本が北朝鮮への反撃能力の行使を迫られるような緊急事態を想定してみると、いきなり韓国側と事前協議を開いて同意までとりつけていては間に合わなくなる可能性があるのではないか。 一方で、こうした局面における日本・アメリカ・韓国の提携は重要である。そこで日本の統合作戦司令部には、平素からハワイのみならず、米韓同盟側とも関係を構築していくことが期待されよう。 実際に近年のアジア太平洋では、「ハブ・アンド・スポークス」型同盟網を基本としながらも、条約上の同盟国ではない国同士の安全保障上の関係が深まりつつある。ラーム・エマニュエル駐日米大使が言う「格子状の構造」(“lattice-like” structure)である。統合作戦司令部には、指揮権調整の面から、そうした同盟国・同志国等との連携強化への貢献が期待されるだろう。 ※本稿は筆者個人の見解であり、所属組織とは無関係です。 ◎千々和泰明(ちぢわ・やすあき) 防衛省防衛研究所主任研究官 1978年生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士課程修了。博士(国際公共政策)。内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付主査などを経て現職。この間、コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。専門は防衛政策史、戦争終結論。著書に『安全保障と防衛力の戦後史 1971~2010』(千倉書房、日本防衛学会猪木正道賞正賞)、『戦争はいかに終結したか』(中公新書、石橋湛山賞)、『戦後日本の安全保障』(中公新書)、『日米同盟の地政学―「5つの死角」を問い直す』(新潮選書)など。 1 連合(combined)が国家間の軍のまとまりを指すのに対し、「統合」(joint)は一国内の陸海空軍などの異なる軍種がまとまることを意味する。 2 統合作戦司令部をめぐってはこれ以外にも統合幕僚監部との任務の切り分けや既存の自衛隊司令部の見直しなど、様々な論点があるだろうが、本稿では扱わない。 3 統合作戦司令部創設を含む自衛隊法改正案の国会審議において政府は、「指揮権が分かれているということ、そのことによる不都合はない」と答弁している。第213回国会衆議院 安全保障委員会第7号令和6年4月11日<https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail? minId=121303815X00720240411&current=1>(2024年7月3日アクセス)。 4 松本はる香「第一次台湾海峡危機をめぐる大陸沿岸諸島の防衛問題の変遷―『蒋介石日記』および台湾側一次史料による分析」『アジア経済』58巻3号(2017年9月)30頁。 5 “Administrative Agreement Between the United States of America and Japan to Implement Provisions of the Agreement They Have Entered into for Collective Defense,” 「平和条約の締結に関する調書IV」、外務省、247頁、<https://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/honsho/shiryo/archives/pdfs/heiwajouyaku2_06.pdf>(2024年7月3日アクセス)。 6 「第11回非公式会談」(1952年2月16日)「調書VIII」329-331頁 <https://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/honsho/shiryo/archives/pdfs/heiwajouyaku5_16.pdf>(2024年7月3日アクセス)。 7 “CINCFE to Department of Army, C52588,” July 26, 1952, 石井修・植村秀樹監修『アメリカ合衆国対日政策文書集成 アメリカ統合参謀本部資料 1948-1953』(15)柏書房、2000年、214-215頁。 8 岩田清文・武居智久・尾上定正・兼原信克『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』新潮新書、2021年、120-123頁。 9 日本に対する弾道ミサイル攻撃などがおこなわれた場合に、相手の領域において、日本が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ(敵の射程圏外)防衛能力などを活用した自衛隊の能力。
防衛省防衛研究所主任研究官 千々和泰明