薬を使わない不眠治療「認知行動療法」とは、日本では保険診療外だが欧米では最初の選択肢
不眠恐怖症、寝室恐怖症の悪循環を断ち切る「睡眠制限法」の指導を解説
先述したように 「早寝」「長寝」「昼寝」の3つの非合理的な寝方を修正するのが睡眠制限法である。その目的は「寝床で目が覚めている時間をできるだけ短くする」ことだ。すると負の条件付けが解除されて就床時の不安緊張感が軽減し、入眠困難がかなり解消される。また、寝床にいる時間を最小化することで中途覚醒も減少する。必要睡眠時間はかならず確保されるからだ。 具体的な睡眠制限法の指導を簡単に解説すると、まず患者に1、2週間ほど記録させた睡眠日誌に基づき、寝床にいる時間を算出する。そこから寝つきにかかった時間や中途覚醒時間を差し引いて実際に眠っている時間(総睡眠時間)を計算する。そして総睡眠時間にできるだけ近い時間まで寝床で横になっている時間(床上時間)を削るのである。 例えば、総睡眠時間が5時間半の患者では床上時間を総睡眠時間に1時間足した6時間半に設定する。毎朝6時に起床しなくてはならない場合、逆算して6時間半前の23時半に就床させる。就労の有無、年齢、合併症などに応じて床上時間を調整するが、基本的に就床・起床時刻を休日も含めて守らせる。 1週間毎に、睡眠日誌の記録から睡眠効率(総睡眠時間/床上時間)を計算し、85%以上であれば床上時間を15分延長し、80%未満であれば15分短縮する。これを毎週繰り返す。睡眠制限療法により、寝床で悶々として過ごす時間を圧縮することで、不眠恐怖症、寝室恐怖症の悪循環を断ち切る効果が得られるのである。
認知行動療法のエッセンス
CBT-Iのその他のコンポーネントの詳しい説明は割愛するが、エッセンスをまとめると以下のようになる。 不眠症は不眠恐怖症、寝室恐怖症という側面がある。このような患者では、「こんな気分で眠れるわけがない(感情的決めつけ)」「不眠だから何もできない、眠れさえすれば全てうまくいく(過度の一般化)」「原因は全て不眠(誤った原因帰属)」「8時間以上寝るべき、ぐっすり以外は意味が無い(べき思考/全か無か思考)」などの睡眠に関する認知パターンに歪みが生じることが多いため、不眠に対する不安が高まり、睡眠に対して過剰に意識が集中している。カウンセリングで個々の患者が有する認知の歪みを聴き取り修正するのが認知療法である。 また、不眠症患者では就寝時にも交感神経の緊張が高く、深部体温の低下が弱い、副腎ステロイドの分泌量が多いなど「生理的過覚醒」と呼ばれる状態にあることが知られている。漸進的筋弛緩法は骨格筋(意志で動かすことのできる筋肉)を意識的に緊張させ、その後弛緩させることによって副交感神経優位にさせる身体療法の一つで、寝付きを良くさせる効果がある。(参考記事:「睡眠中に心拍数や血圧、体温が乱高下する「自律神経の嵐」とは」) CBT-Iの各技法は単独でも効果があるが、組み合わせることで有効性が高まる。最近ではCBT-Iを支援する治療用アプリが医療機器として承認された。ご興味があれば「実に残念、期待の不眠治療アプリの保険適用が不認可に」をご覧ください。
(三島和夫 睡眠専門医)