薬を使わない不眠治療「認知行動療法」とは、日本では保険診療外だが欧米では最初の選択肢
具体的な手順を紹介、もっと普及すればその恩恵を受けられる患者は多数いるはず
今回のテーマは「薬を使わない不眠治療」である。「不眠症の経過を大きく左右する「信念と態度」とは」で説明したように、不眠に悩む人にしばしば見られる睡眠に関する誤った思い込みや就床行動が不眠を更に悪化させる。今回紹介する不眠症の「認知行動療法(Cognitive behavioral therapy for insomnia; CBT-I)」はそのような睡眠に関する認知の歪みや不合理な就床行動を患者さんに理解して(気付いて)もらい、正しい方向に軌道修正することを目的としている。CBT-Iは薬を使わない有力な治療法の一つとして知られ、欧米の不眠症の治療ガイドラインでも最初に選択すべき治療法として位置づけられている。 図:「睡眠制限法」の具体的な手順【不眠症の認知行動療法】 残念なことに、日本では関連学会の働きかけにもかかわらずCBT-Iは保険診療として認められず、国内では睡眠障害の専門外来に所属する公認心理師や臨床心理士を中心に、医師や看護師などが保険診療の枠外で(自費診療もしくはサービスとして)細々と実施している。病院の収益にならないため、CBT-Iのトレーニングを受けた医療スタッフはまだ少なく、経験が浅い人も含めて全国で数百人程度に過ぎない。 当然ながら、軽症も含めると成人の約10%、1000万人と試算されている膨大な数の不眠症患者に対応することはできない。そのため不眠症治療のほとんどは薬物療法であり、実際、国内では成人の5%(約500万人)が医療機関から処方された睡眠薬を日々服用している。CBT-Iがもっと普及すればその恩恵を受けられる患者も多数いるはずである。 標準的なCBT-Iは6回の治療セッションから構成される。その中で、不眠の認知行動療法の3大コンポーネントである「睡眠制限法」「認知療法」「筋弛緩法(リラクセーション法)」などが行われる。同時に、全治療期間を通じて睡眠日誌やウェアラブルデバイスを使用して睡眠のモニタリングを行う。 治療セッションは1回1時間程度かかり、1、2週間間隔で計6回を行うのに2~3カ月間かかるが、これでもうつ病など精神疾患に対するCBTに比較するとかなり短期間である。 患者の不眠症状や、それに関連した不安や困りごとは非常に多様であり、また治療とともに変化する。当然ながら認知行動療法も状況に合わせて実施内容が調整されるため、治療に必要な期間も患者によってまちまちである。 CBT-Iの治療コンポーネントの中でもっとも有効かつ日常生活で応用しやすいのは睡眠制限法なので、そのエッセンスをご紹介する。